mainT 短編・中編

□クオリア
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「あとね!大石と違って、私は推薦で決まったから、もう受験勉強する必要もないの!
 だから、残りの中学生活は結構ヒマなの。部活も見に行きたいし、
 薫と時間が合えば、デートとか……さ……。」
 
「あぁ……。」
 
 
そういえば、大石先輩も外部受験するって言ってたっけ……。
デート……。最近まともにしてなかった。
部活を引き継いだばかりで、デートする余裕もなかったし、きっとりみも忙しかった。
でも……4月からは俺は中3で、りみは高校生。しかも、外部。
 
 
「薫……そんな顔しないで。」
 
 
りみは手のひらで俺の頬を包んだ。
俺は相当情けない顔をしていたんだろう……。
頬を包んでいるりみの手をそっと握り、静かに下ろしてりみを抱き寄せた。
 
 
「相談せずに決めちゃって、ごめんね……。」
 
「今、話してくれたじゃねぇか。」
 
「推薦が決まる前に話しておきたかったんだけど……部活、忙しかったでしょ?
 だから、事後報告になっちゃった……。」
 
「りみの進路を俺がどうこう言ったって、どうしようもねぇよ。」
 
「……そう…だね……。」
 
 
りみが青学に進むにしろ、外部に進むにしろ、
今までのように頻繁には会えないということは決まっている。
それだったら、やはり将来のために、外部の学校へ行った方がいいのかもしれない。
でも俺からしてみれば、信頼できる手塚先輩や乾先輩がいる青学に通ってくれた方が安心だし、
外部よりは会いやすい。
それに、俺が高等部に入れば、また一緒に部活ができる。
毎日、りみの弁当が食えて、笑顔が見れて、応援してもらえる。
 
今まで、どれだけりみが俺の力になっていたことか。
 
だからこそ、俺にりみの夢を邪魔する資格なんてない。応援したい。
……正直、りみと離れるのは嫌だけど、今度は俺が応援する番なんだ……。
 
 
色んな思いが頭の中で駆け巡って、ただでさえ言葉の足りない俺は、
何を言えばいいのかわからなくて、
りみの顎をつかみ口付けた。
深くなっていくと、気づけばりみは顔を真っ赤にして息が上がっていた。
 
 
「はぁっ……はぁっ……。」
 
「りみ……ガンバレよ……。」
 
「ありがとう。薫も、がんばってね。」
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
それから、あっという間に時間は過ぎて、りみは、3年の先輩たちは卒業の日を迎えた。
 
 
「海堂、寂しいか?」
 
「乾先輩!ビックリしたっスよ!」
 
「あぁ、すまない。」
 
 
テニス部の送別会から少し抜け出して、
よく野良猫なんかがくる校庭の隅で桜を眺めていたら、後ろから乾先輩に声をかけられた。
 
 
「で、寂しいか?俺たちがいなくなるのは。」
 
「……そりゃ、寂しいっスよ。」
 
「だそうだ、真咲。」
 
「はっ!?真咲先輩!?」
 
「ははっ、どーも。」
 
「俺もいるよーん!」
 
 
近くの木からヒョコっとりみと菊丸先輩が出てきた。
 
 
「真咲、早めに戻らないと手塚が怒る確立、100%だ。」
 
「わかってるよ、それくらい。」
 
「では、俺たちは部室へ戻ろう、菊丸。」
 
「え!?俺も!?」
 
「当然だ。」
 
 
乾先輩に引きずられ、菊丸先輩と乾先輩は部室へ向かった。
 
 
「薫、私ね、青学に来て本当によかった。
 この青学テニス部でマネージャーできて、薫に出逢えて、
 本当にしあわせだったよ。ありがとう。」
 
「何言ってんだ。別れるみたいじゃねぇか。」
 
「そうだね。ごめん、ごめん。」
 
「りみ…卒業、おめでとう。」
 
「ありがとう。」
 
 
 
これからは頻繁には会えないだろうけど、きっと会えない分だけ会えた時の喜びは大きいだろう。
そばにいなくても、離れていても、きっと
 
きっと、俺たちは大丈夫。
 
 
  
「部室、戻るか。」
 
「そうだね。」
 
 
部室までの道をいつもよりゆっくり、
今までの思い出をかみ締めるかのように
りみと歩いた。
 
 
 
 
−END−

(2011.02.13 title by UVERworld 『クオリア』)


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