mainT 短編・中編

□クオリア
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3年生の先輩方が引退して、つまり俺が部長になってからもう数ヶ月経つ。
そして今日、3年生の先輩方が息抜きも兼ねて部活を見に来てくれた。
 
 
「久しぶりにみんなとテニスが出来て楽しかったよ。」
 
「先輩たち、引退したのに全っ然体鈍ってないっスねぇ〜!!」
 
「そりゃ、今でもトレーニングは欠かさないからねん!」
 
 
部活が終わって久しぶりに部室にいる先輩たちをみると、俺も嬉しくなる。
他の部員もなんとなく、いつもより動きが良かったのは先輩たちがいたからだろう。
 
 
「薫、お疲れ様。」
 
「真咲先輩!お疲れっス。……あの、名前……。」
 
「え?名前?…あぁ、薫って呼んだこと?」
 
 
今日先輩たちと一緒に見に来ていた3年で元マネージャーの真咲先輩。
そして俺の……彼女だったりする。
お互いしっかりケジメをつけたいから、俺は学校では「真咲先輩」と呼んでいるし、
彼女も「海堂」と呼んでくれていた。
でも、今日は「薫」と呼んだ。
 
 
「…まだ校内っスよ。」
 
「私たちが付き合ってることはみんな知ってるし、
 もう私はマネージャーじゃないから、いいでしょ?」
 
「はぁ……。」
 
「それよりさ、今日「海堂、ちょっといいか。」……。」
 
「手塚部長!」
 
「部長はお前だろう、海堂。」
 
「あ、つい……すいません。真咲先輩、ちょっと失礼します。」
 
「うん……。」
 
 
俺は手塚先輩に呼ばれテニスコート内のベンチに移動して、
最近の部活についてだとか色々聞かれたし、アドバイスもしてくれた。
やっぱり、手塚先輩はさすがだ。
 
 
「ところで海堂、最近真咲とは……どうなんだ?」
 
「ど、どうって……別に、普通っスよ。」
 
「そうか。」
 
「何でっスか?」
 
「いや……なんとなく、だ。」
 
「はぁ……。」
 
 
手塚先輩がりみのことを聞いてくるとは思わなかった。
部室に戻ると、まだまだ部員たちは帰ろうとせず先輩たちと話し込んでいる。
 
 
「ねぇりみ〜!!英語の宿題見せてにゃ!」
 
「えぇー、自分でやんなさいよ。」
 
「だって明日提出なんだぞっ!?不二には断られたし〜!」
 
「ちょっと、菊丸!重たい!
 わかった、わかった!丸写しはダメ!ちゃんと教えるから、自力でやってよね!」
 
「やったー!!ありがとう!りみ!!」
 
 
菊丸先輩がりみの背後からのしかかるようにして抱きついていた……。
なにやってるんだよ、菊丸先輩。りみもりみだ。
菊丸先輩がわがままなのはいつものことだし、
りみが困っている人を放っておけないことも良く知っている。
だからって、黙って抱きしめられているのはどうかと思う。
……なんか、腑に落ちねぇ。
 
 
「あ、薫!もう手塚とは話すんだの??」
 
「あぁ……。」
 
「そっか!ごめん、今日は先に帰って!菊丸の宿題みることになっちゃって。」
 
「ごめんにゃ、海堂。でも俺も進学かかってるから!!」
 
「英二、その辺にしといた方がいいと思うけど……。」
 
 
いくら俺が猫好きだからって、菊丸先輩が猫のように俺を見つめても、
彼女が他の男に勉強を教えるなんて、イヤに決まっている。
せっかく久しぶりにりみと一緒に帰れると思っていたのに。
 
 
「りみ!帰るぞ。」
 
「え!?」
 
「わぁ!海堂!俺の宿題!」
 
「そんなもの自分でやってください。」
 
「ごめん、菊丸ー!自分でがんばってー!!」
 
「えぇー!!!」
 
 
俺は自分の荷物とりみの荷物とりみの手を引いて、部室を後にした。
 
 
 
 
「フフ。『りみ』って呼んでるの初めて聞いたね。」
 
「海堂が怒ってた確立、100%……。」
 
「わぁ、どうしよ〜!!!」
 
「自分で宿題をしない菊丸が悪い。」
 
「マムシのヤツ、最近真咲先輩とまともにデートもしてないみたいですし、
 英二先輩があんなに真咲先輩にくっつくからっスよ!」
 
「だって……俺だってさみしかったんだもん……。」
 
「英二……。」
 
 
 
 

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