SSS
□只今元気を充電中!
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がしゃり!
と、嫌な音が部屋中に響き渡ったかと思いきや真っ白なポットが足元で見事に分裂する。
そしてそこから広がり出した紅茶の湖に、「あああ…」なんて私が間抜けな声を出している間にも手際良くそれらの処理を始める御堂さん。
かと思えば不意に止まってしまった、あらゆる動作。
急にどうしたものかと顔を覗いてみても、
御堂さんは俯いたままで何も読み取れない。
「お嬢様……誠に、誠に、申し訳ございません」
どことなく哀しげな声でちりとりとモップを両手に深々と頭を下げる。
そしてその肩やら背中はすっかり縮こまっていて、どこかもの悲しさを漂わせていた。
分かった、きっと原因は あれ だ。
今日は珍しく朝から屋敷の中が賑やかだった。いや、荒れていたと言うのがふさわしいのか。
どちらにせよその中心となったのは御堂さんだ。
−−−
「うぎゃ!!」
「ま、雅弥様!!大変申し訳ございませんっ」
エスコートする時には雅弥くんを扉に挟んでしまっていたし、
「か、要くん!?」
「は、ははは……あらぬ姿を見られてしまいましたね」
転がっていた万年筆に足を取られて派手にすっ転んでいたり、
「雅弥様」
「僕は雅季だけど」
「はっ!私としたことが何て過ちをっ!!」
「……そんなに気にしなくて良いよ」
2人を間違えるなんて100年に一度あるかないかだ、なんて言われている御堂さんがその雅季くんと雅弥くんを間違っていたのだって。
−−−
「御堂さん、大丈夫…?」
「…私、でございますか、」
下を向き続けていた顔をやっとこちらに向けてくれた。
「朝から大変そうだったから、つい」
「…あ…ははは、それでしたら私は大丈夫でございます」
力無く笑う御堂さんを見てしまっては大丈夫そうには見えなくて。
きっと心底落ち込んでいるんだろうな……。
「ただ、私のミスで皆様にご迷惑をお掛けしてしまったのが心苦しく思うのです」
そう言って再びモップへと視線を戻し、俯く御堂さんの瞳があまりにも儚く悲しそうで。
私は思わず動き出してしまった。
「ほら、元気出して!」
勢いを付けた声に乗る様に、すっかり縮こまっていたその背中に ぴたりとくっついてからギュッと抱き締めた。
只今元気を充電中!
(今日は私が御堂さんに元気をあげちゃいます)
「お嬢様、ありがとうございます」
とほんのりと赤く頬を染めながも照れ臭そうに微笑んだ御堂さんをもう一度抱き締めてみれば、「ふふ、充電完了しましたよ」と、今度は活き活きとした笑顔を見せてくれたのだった。
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