SSS
□読めない恋文
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※御堂ストーリーネタバレ注意
見慣れた車に乗り込んだものの、その違和感に胸がつっかえる。
(どうして、柊さんなの)
そう。
その車内にはいつもの笑顔で迎えてくれる御堂さんの姿は無く、変わりに無表情な柊さんに迎えられたからだ。
何なの、この胸騒ぎは。
そわそわと落ち着かない私なんか気にならない様子で車を進める柊さん。
先日の事もあって、「どうして今日は柊さんが来てくれたの」なんて聞ける筈も無く、ただただ窓から流れゆく景色を眺めてこの気まずい時間をやり過ごした。
屋敷内に入ってからも御堂さんが出迎えてくれる事はなく、明らかにいつもと違う状況に戸惑いつつも自室へと向かう。
「あれ、何だろこれ」
自室の机上にポツリと置いてある真っ白な封筒。
朝は無かったのにな、なんて不思議に思いながらも便箋を取り出して読めば、次第に重たくなる胸中。
「……っ、」
読み終わり、胸に抱き締めた便箋。
そこに連なる文字は、書いた本人のような繊細さと優しさが現れていて、しかも文章は私への慈愛に満ち溢れているものだった。
読めば読むほど涙が出る。
読むだけ悲しくなるのなら、もう読みたくない。
しかしそうは思っても最後の文がどうしても気になり、涙を拭いながらも読み返してしまう自分はどれほど彼を好いているのだろうか……と、自嘲気味に笑った。
あれから、何度読み返したのだろう。
文字は所々涙で滲み、便箋もしわくちゃだ。
それでも未だにどう解読して良いのか分からないその最後の文章に、涙を流しながらも再度目を走らせる。
「"あなたを好きになってしまいそうだった"だなんて……」
思わせぶりにも程がありますよ、なんて呟いてみてもそれは本人に届く筈も無くて。
もう一度その一文をそっとなぞってみれば、残っている筈も無い御堂さんの温もりを感じた気がした。
読めない恋文
(涙で滲んで読めないよ。文字も、あなたの意図も、未来も。)
"お嬢様の幸せを、いつまでも――――。"
その文字の下に、「愛しています」なんて消された文字跡があるなんて、その時は気付かなかったんだ。
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御堂シナリオから抜粋。
きっと何回も書いて書き直したと思われ。
あ、殴り書きでもそれはそれで良い←