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□09:完成されたライン
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今日もかっっわいいさー。
透き通るような白い肌に揺れ動く白銀の髪。あれやこれやとジェリーに注文を伝える後ろ姿をそれとなく見遣りながら、緩む口元を必死で引き締める。ふわりと微笑むその姿はまさに地上に舞い降りた天使だと思った。
「たまらんさ」
「……ああ」
只今食堂の片隅にユウと陣取って遠目で天使ちゃん観察中。ジュース片手にポツリと呟くと隣から同意の返事が返ってきた。いつも通りの仏頂面で湯飲みを啜りながらもその視線は確実にアレンを捉えている模様。
「あの首筋、噛み付きたくなる」
「ぅお、ユウのムッツリ」
「テメェにだけは言われたくねェよ」
「オレはあの腰が好きさ」
「…ああ、抱きたくなる」
「ぶッ…!!」
悪びれた様子もなくさらりと吐かれたセリフに思わず吹き出してしまった。汚ねェ、と睨まれたがそれどころじゃない。
こんにゃろ、クールな顔してオレのアレンになに言ってんさ。そんな自分も口では言えないあんなことやこんなことを24時間体制で脳内アレンにさせているなんてことは高い棚の上にあげておく。それにしても可愛い。可愛すぎるさ。まだ成長途中の薄い体が持つアンバランスさが堪らん。
「…抱きたいに、一票」
「だろ?」
ひらりと片手を上げてそう言うとユウが不敵に笑ってきた。遠くで何も知らないアレンがビシッと三本指を立ててジェリーに何か言っている。デザートにみたらし団子三本…いや三十本といったところさ。まさかその背後で自分のケツが狙われているなんて思いもしないだろう。しかもオレらに。
「あの腰掴んで攻め立てたいさ」
「たまにはバックってのもアリだろ」
「上に乗せて自分でさせるってのもいいさー」
「アイツは潔癖なところがあるからな」
「焦らしに焦らして欲しがらせるってどーよ?」
「…いい。ああ見えて少し強情なところがまたそそる」
「アレンならきっとイく時もキレーさぁ」
「戸惑いながらも呑まれていく様を見てみたい」
「ああそれ、ぜってえ可愛い…」
まさにストライク。考えただけで鼻血ブーしそうオレ。イク間際に切なく名前なんて呼ばれちゃった日には任務そっちのけで当分離せなくなる自信があるさ。
ユウもユウで不気味なほど饒舌だし、おまけに鼻の下まで伸びてるし。世間一般様には至ってフツーに見えるかもしれねェけど?付き合いの長いオレからすればこれは正真正銘にやけ面さぁ。
「「あ、」」
その時オレらのエンジェルウォッチングに水を差す奴らが。図体のデカいファインダーが数人ぞろぞろと歩いてきてオレ達とアレンの間に立ちはだかった。おいちょっと待て。そんなとこに座られたら完全に見えなくなるっつのッ。
「ユ、ユウ」
「チッ…」
「お願いするさ」
任せろ、そう言ったユウの声は魔王か何かかと思った。だからユウって心強い。
ギロリと元から悪い目付きにさらに殺気を宿らせてファインダーたちを睨み付ける。間もなくそれに気が付いた一人の顔からサーっと血の気が引いていった。可哀想に、冷酷無比で名高い神田サンの癪に障るようなことをしてしまったんじゃないかと仲間の内でざわめきあっている。
したさ、てか真っ最中さ。お前らの顔よりアレンなのっ。早くどけっての。オレもそれとなーく冷ややかな視線を送っておく。
――ガン…ッ
そして追い討ちをかけるようにユウが机の脚を蹴り付けた。わざと音が鳴るように、けれど大きすぎず小さすぎずこちらを意識しているアイツらにだけ聞こえるように。すると一斉に大きな身体をビクリと震わせて血相変えて逃げていった。あ、慌てすぎて一人転んださ。
「ぶっ、さっすが大将!」
「フン…」
勝ち誇った笑みを浮かべるユウの背中を叩いてやってエンジェルウォッチング再開。オレらとアレンの間を邪魔しようなんて一千万年早えーっつの。
「お、今日も大盛りさね」
「相変わらず、見てるこっちが胸焼けになりそうだ…」
親切にもどいてくれたアイツらの影から山のような料理を二つのトレーに乗せて運ぶアレンの姿が現れた。あの細腕であれだけの量を軽々と運べるところを見るとああやっぱアレンも立派な男の子なんだなって再認識。
「……持久力」
「へ?」
「ありそうだと思わないか」
くいっと顎でアレンを指すユウ。言われるがまま視線を戻すとなるほど、と合点がいった。見た目とは裏腹にしなやかで柔軟性のある足腰。体力も申し分ないだろう。
「二回は確実だろ」
「いや三回は付き合ってもらいたいさ」
「えげつないな」
「ユウにだけは言われたくねェっての」
既視感を思わせるセリフにどちらともなく薄い笑みを浮かべる。緊迫した戦争の真っ只中、こうして同い年のやつとこうした話が出来るってのもなかなか楽しいもんさ。ま、最後に勝つのはオレだけど。
「あっ、ラビ!神田ー!」
「んお」
「…来るぞ」
ふとオレらの存在に気がついたアレンが器用に両腕のバランスを取りながら近づいてくる。ユウと互いの顔を見合わせてアイコンタクト。大丈夫、にやけてないさ。
「前の席、ご一緒してもいいですか?」
「もっちろん!」
「…勝手にしろ」
ありがとうございます、と言って微笑むアレン。純白の笑顔に目眩がした。お兄さん達の頭の中は君でピンク色デス、なんて知られた日には一生口もきいてもらえなくなりそうで心配。
「あ、みたらし団子食べますか?」
「食う食う!ユウはー?」
「ぬおッ近づけるな馬鹿ウサギ!いらん」
「美味しいのにー」
「つれねェさユウー」
「…刻むぞ」
いらないなら置いといてください、僕が食べますからと言ってアレンもみたらし団子に手を伸ばす。はむっ、という効果音がぴったりな可愛らしい食べ方。
「「………」」
あ、ユウと目が合った。うわ何でだろう。ユウが今考えてることが手に取るように分かる。お互い同じモン連想してるんだろーなぁとか考えたらどうしよもなく笑いが込み上げてきた。口元がプルプルする。ヤバい堪えろ、堪えるんさオレ…!もっと別のものをとか考えんなッ。
「ラビ?神田?」
ああ、純粋無垢な瞳に浄化されそう。
取りあえず、なんさ。
お兄さんはアレンの顔が直視デキマセン。
fin. 20110210