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□My ideal line
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「そろそろオレの存在に慣れてよ」
「ゴメンさ、時折正気に引き戻された瞬間壮絶な違和感に襲われるんさ…」
「俺は慣れたぞ。つまりは同じ穴を掘りたいむじなというやつだろ」
「お!いいこというね!それだよそれ」
「店員さんバカ二人返品でお願いするさ」


足の長いオレらが狭いテーブルで向かい合うと足のやり場がなくて困る。

端正な顔にビシッと着こなされた上質なスーツ。今は上着は背凭れに掛けられているが捲られたワイシャツからは筋肉質な腕が覗き、ゆったりと椅子に腰掛ける様は悔しくも周囲のマダムやレディ達の視線を釘付けにしている。だがしかし——。

「ところで少年は絶対処女だよね」

どんな深窓の令嬢も一言で口説き落とせそうな声で紡がれる内容はこれだ。側から見た自分はいつもこうなのかと思うとなんとも言えねェさ。全てはアレンが犯罪級に可愛いのがいけないということにしておく。

「それについては前回のアレンの会で議論済みさ!」
「処女もいいが、過去にワケありパターンも燃えるという結論に至った」
「んー確かに。だがオレとしては処女でいて貰いたいね〜。ハジメテは全部オレがいい。オレしか知らない身体を作りたい。男のロマンだろ?」
「アレンのことだから女もまだ知らないに一票」
「それには同意する」
「イイねぇ!セックスって言葉聞いただけで赤面しちゃうんでしょ?」

…何それめっちゃ可愛い。わざとしばらく放ったらかしにして『せっ……く、す…しよ?』って言わせたい。『したいんさ?』とかわざわざ聞き返して困らせたい。『っ……し、たい…です』とか言われた日にはオレはアレンを讃える為に教会を建てるさ。

「青年たちにはまだ分からないと思うけど正直この歳になると十代の童貞の男の子とか本気で抱ける気してくるんだよね」
「そんなに真に迫られた顔で言われても逆に戸惑うさ」
「ところで処女って抱いたことある?」
「ない。痛がるだけで面倒だしな。あいつなら話は別だが」
「ユウが思いの外ゲスいさ!オレはあるな、マリーとエミリアは絶対処女だった」
「いや眼帯くんも人のこと言えないよね?…おっと」

にこやかに料理を運んできてくれたウエイトレスにはオレとティキは素早く笑みを作り、ユウは静かに口を閉ざす。東洋人のこういう顔ってミステリアスだとか何とか意外と人気あるんさよね。ユウが分かってやってるとは思えないケド。

コーヒーを一つ、と優雅に指を立てたティキにウエイトレスの女の子は一層頬を赤くして去っていった。

「世間体気にするのも楽じゃないさよね〜」
「仕方ないだろ?女に夢見せるのもイイ男の務めだ。割り切れ青年」
「正直、オレブックマンだしアレンと一緒になる為には障害多すぎて泣きそうさ」
「そういうなよ、オレなんて敵だぜ?お前の方がまだ望みあるって」

ぽん、と肩を叩かれて思わず緩む涙腺。なんだこいつめっちゃイイやつじゃん。ちょっと泣けてきたさ、どうしよう。

「あ、敵といえばノア少年っていいと思わない?」
「?なんだそれは」
「ノアのアレンってことさ?」
「ご名答!つまり少年がノアになっちゃうってコト」
「…っ!?」
「どうしたんさユウ」
「…ひらめいた。つまり——」


『お前…!?』
『神田も…一緒に来よ?ううん、ユウ。ユウをずっと苦しめてきたのはこの教団なんでしょ?だったら壊せばいい。これ以上ユウが我慢する必要なんてないんです。ユウを苦しめる全てのものを僕が壊してあげるから』
『……あいつは、そんなこと言わねーんだよ』
『…酷いですね』

妖艶に笑った見知らぬ相手が俺の手を取り無理やり自身の服の中に差し入れた。

『僕は僕です。覚えているでしょう?このカタチも、このぬくもりも…全部。ねえ、ユウ…』


「俺ノアになる」
「寝返り早ッ!?いやオレは大歓迎だけど」
「いいさ!ノアアレン最高さ!!つまり——」


『アレン……!!』
『僕のこと純粋で綺麗だって?』

立ち込める砂煙りの中、アクマの背に乗り上空に浮かぶアレンの姿だけがやけに鮮明に見えた。

『ばーか♡』

それは、悪魔の微笑み。

『僕はこんなにも簡単に人が殺せるクズ野郎ですよ?なのにラビは……、ラビは……ッ』

冷たい仮面を纏ったアレンの表情が僅かに歪む。

『僕にっ…綺麗だ、可愛いって…いつもいつも、バカみたいに……っ、ラビの言葉は僕への呪いだ!僕を蝕み、僕を僕でなくす!!』


「何これノアアレンめっちゃ萌える」
「だろ?少年のお綺麗な白い肌が褐色に染まる様なんざ勃起もんだろ」
「ノアアレンは絶対ビッチだと思うんさ」
「そこは譲れねェな」
「シェリル兄さんの毒牙にかかりそうな所を助けに行きたいね〜」
「誰さそいつ?」
「オレんとこの変態兄弟」
「いや待て助けるよりも——」


『オイモヤシ!なんでこんな奴とッ!』
『別に、気持ちよくしてくれるなら誰だってよかったんです。だってユウ、ここの所ずっと……』
『ほう…俺のせいだと言いたいのか?そりゃ悪かったな』
『…ッ!?待っ……!い……ッ』
『………』
『ユ、ユウ……?』
『ここであいつに見られながら俺に犯されるのと、部屋でめちゃくちゃにされるのどっちがいい?』
『っ……!?』
『選ばせてやる。さあ、言え…』


「かーらーのヤリ倒しだろ!?いいね青年分かってるぅー!」
「ユウの妄想も相変わらずだけどノアアレンに未来しか感じないさ!オレもノアになろ!!」
「いや待て、少年がノアになるのが萌えるならオレがエクソシストになるのも萌えるんじゃないか。つまり——」


『ひゃーこれはまた…』
『ティキの団服が…!こんなのもう着れないじゃないですか…誰がこんなっ……』
『いいんだよ少年。仕方がないこととは言えオレはついこないだまでお前らの敵だったんだ、受け入れられなくてトーゼンさ』
『そんな……』
『…少年だけが知っていてくれればいい、オレの本当の姿を。オレなんかのために泣くなよ。犯すぞ?』
『っ……ばか』


「殺す」
「殺す」
「なんで!?」

ギャーギャーと白熱する議論にそろそろ周囲の目も気にならなくなってきた頃、ふとユウから何か黒い影のようなものが物凄い勢いで飛び出した。

サッと青ざめるオレ。まだ言い合いを続けるユウとティキ。

「か、神田サン……」
「だからモヤシがノアになるのはいいがテメェがエクソシスになるのは認めねェっつって……んだよ」

静かにソレを指を差すとユウが訝しげに眉を顰めたあと振り返る。そこには大好きなユウの数々の裏切りのセリフを聞き、大粒の涙を飛び散らせながら何かを訴えるように必死に羽を動かすゴーレム。

「………」
「………」

言わずもがなゴーレムには通信機能が付いている。ゴーレムがONになっているということはつまり——。

「ユウ、さっきファインダーに連絡入れたあと…」
「………」
「電源切らずにポケットの中突っ込んださ!?」

もし今までの会話を聞かれていたら、この際オレ達がアレン信者であことがバレるのはいいとしよう。ノアになる云々のくだりに青ざめたファインダー達が教団への裏切りとして上層部に報告を入れていたら…ッ。
グッバイ、オレとアレンのめくるめく共同生活。アレンに『信じてたのに……っ、仲間だと思ってたのに……ッ!』とか泣かれた日には…ちょっと萌えるさ。

「ナニ、どうかしたの?」
「…、ノアの食堂に蕎麦はあるか?」
「蕎麦?食堂はねェがアクマに作らせりゃ何でも食えるぞ」

さすが大将。素早くゴーレムを掴み、電源を落としてポケットに入れたかと思えばこれだ。手持ち無沙汰になったティキが煙草に火を点ける。

「モヤシを拉致するのもよくないか」
「イイねぇ!少年みたいに意志の強いやつは調教し甲斐がある。監禁して少しずつ壊してやりたくなるな。少年のために鳥籠の部屋を作ろう」
「枷は片足に一つがいいな」
「服は…眼帯くんは白のワンピースが好きなんだっけ?」
「最高さ!!」

褐色の肌にスーツのオレとユウもなかなかいいかもしれない。アレンを抱いた時アレンの白さが際立つ。この際アレンとオレとユウとティキで排他的で官能な日々を過ごすのも…って何を考えてるんさオレは!!

邪な心の浄化を願うように地中海の晴れ渡る空と乾いた太陽を見上げた。あと少しで二人の毒気にやられ悪いお兄さんは本物の悪人になるとこだったさ。綺麗な顔して二人ともエゲツないことこの上ない。神様発注ミスですよ。

「昔の夢を見て泣くモヤシもいいな。『同じ顔なのに…っ、同じ声なのに…っ、どうして……ッ』とか言われたい」
「絶望と快楽に歪む顔とかサイコーだな。女に勃たなくなりそうだ」

……なんさそれ可愛い。

ぞわりとした感覚には気づかないフリをした。運ばれたまま手つかずだったサンドウィッチを口に運ぶ。味は全く分からなかった。


どうかこれを食べ終えるまで、オレの理性が保ちますように…!



fin. 20150614
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