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□Lost gleam
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『ごめんね…アレンくん、先に伝えられなくて…』
『いえ、コムイさんのせいじゃありません』
『まだ戻らないと決まったわけじゃない。ボクも最善を尽くすよ』
『ありがとうございます』

無理やり笑った僕にコムイさんも痛そうに笑った。

病室で呆然と立ち尽くしていた僕は、後から入ってきたリナリーに連れられて司令室に向かった。

そこで聞いたのは、リナリーと向かった任務でラビが負傷したこと。自爆したアクマの爆風に巻き込まれ、押し寄せる雪ごと山肌を転げ落ちてしまったらしい。間一髪のところでリナリーが助けてくれたが、突き出た岩に頭をぶつけ、その時にはもう意識はなかったという。宿で目が覚めたラビとはどうにも会話が噛み合わず、教団に帰って判明したのは、衝撃で一部の記憶が飛んでいるということ。

『リナリー、こいつは?』
『……最近、入った仲間…エクソシストなのよ。ラビとも…仲が良かったの』

「ッ……」

それも"最近の記憶"だけ。僕が入る少し前の記憶までは、いつも通り、どんなことも覚えているらしい。だから、リナリーのことも、神田のことも、コムイさんのことも、分かる。ラビが分からないのは僕と、最近入ったファインダー、ここ半年に起きたことだけらしい。

だけ、と言ってもブックマンが記録を忘れることはあってはならないこと。そうでなくとも、記憶が混乱したまま任務に出れば、今度こそ命に関わる怪我をしてしまうかもしれない。
ラビはしばらく、半年分の記憶を埋めるために療養するらしい。

バタン、と自室の扉を背中で閉めて凭れかかる。一人になりたかった。

書物で分かることならいい。人から伝え聞いて分かることならいい。出来事や関係性なら、きっとラビはすぐに覚えて今まで通りの生活に戻っていくだろう。

『ごめん。アンタ、誰?』

俯くと、ぽつりと床に淡い染みができた。それじゃあ、心は。貴方と思い逢えた僕の心は、どこに行けばいい。

真っ直ぐに僕の目を見て言ったラビの言葉が、突き刺さって忘れられない。


『僕は貴方の恋人だったんですよ』


そう伝えたら、貴方は信じてくれますか。

「っ……」

ましてや男同士で、言える訳がない。このことはリナリーも、僕とラビ以外は誰も知らない。
一度溢れてしまった思いは涙になって止まらない。不安と悲しみ。行き場を失った思いは床を濡らして消えてゆくだけ。


僕だけが、いないみたいだ。


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