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□Another Easter
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『お前は言ったはずだ』
何処からか声が聞こえた気がした。眠りから覚め大きく息を吸うように引き上げられる意識。身体を動かそうとするけれど、どうにも重たくて指先たりとも動かせそうにない。
――ああ、そうか。
ここは深い水の底。身体に、肺に、心臓に、ずっしりとのし掛かった水圧のせいで身動きが取れない。それでも不思議と、苦しくはなかった。むしろ身体を包み撫でる水の感触が心地よいほどに。
これは、夢――。
『いらないなら、オレがもらう』
誰さ。
目を開く。そこには一面の紺青の世界が広がっていた。次第にふわふわと身体が軽くなって、自分が浮上していることに気が付いた。
『なあ、いいだろ?』
キラキラと輝く水面に近付くに連れて声は遠くなってゆく。
『ラビ』
ごぼっ、と音を立てて口から気泡が溢れ出た。
自身よりも早く天を目指すそれをただ呆然と見送りながら、降り注ぐ日の光に目を細める。
水面に達した気泡はぐにゃりと形を変えて、弾けた。