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□学パロ[部活] 神田ver.
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シン、と静まり返った道場内。もう俺以外の部員はいなかった。大会が近いということもあり今日は早めに切り上げたから当然だ。

こうして、慣れ親しんだ空間で一人。座禅を組んで神経を研ぎ澄ませる時間がわりと好きだった。
肺を満たす特有の香り、つい先程まで立ち込めていた熱気も、叫び声も、今は遠かった。

す、と冷たい風が入り込んできて人の来訪を告げる。誰かなんて分かりきっていた。

「神田ー?」

戸口からひょっこりと顔を出して、俺の名を呼ぶ白いあいつ。放課後、廊下で出くわした時に、今日は帰りが早いと言ったら終わるまで待ってますと微笑まれた。
なかなか出てこない俺を待ちかねて迎えに来たのだろう。
だが、気づかないフリをしておく。

「神田?」

てとてとと、遠慮がちに近づいてくる気配がする。俺の横まで来て、寝てるんですか?なんてふざけたこと抜かすから座っているのに目眩がした。座禅ぐらい知ってろアホか。
いつまで経っても反応を示さない俺の周りをちょろちょろと動き回っていると思ったら急に静かになって、気づかれない程度に片目を開けて盗み見た。

(おいおい…)

そこには俺の隣で見よう見まねで座禅を組むあいつがいた。小難しい顔をしているのに気がついて口元だけ笑う。
俺も着替えを終えていて、勿論モヤシも制服だ。
端から見れば人気のない道場で制服を着た男子生徒が二人、黙々と座禅を組んでいる。我ながらバカらしくなってきた。

気づかれぬようにゆっくりと、気配を消して動き出す。そっと手を伸ばして思い切り、あいつの後頭部を掴んでキスしてやった。
見開かれる大きな瞳に笑いかけて早々に離れて立ち上がる。

「帰るぞ」

真っ赤な顔をして口をぱくぱくさせるそいつに背を向けて出口に向かう。
揃えられた二組の靴。身を屈めてその大きい方に足を通した。

「…神田ぁぁぁ!!」
「うっせ」

背後から飛んできた怒声にまた笑う。
ああ、今日は夕焼けが綺麗だ。

起きてたんですかとか騙すなんてひどいですとか、わけの分からないことを言いながら駆け寄ってくるバカ。だから寝てねェつってんだろ。

「待ってたのに…」
「俺もだ」
「え…?」

待っていた。ずっと。
お前が迎えに来るのを。
たまにはいいだろ?
迎えに行くばかりじゃ退屈だ。たまには、お前が来てくれたって。

「行くぞ」

はいと笑って、当たり前のように重ねられた手を握り返す。

「ユウ焼け焦げてー日が暮れてー山のお寺の鐘が鳴るー」
「テメエ…」

相変わらず憎まれ口は減らない。でもこの右手を離すつもりは更々なかった。


夕焼け小焼けで日が暮れて。
おてて繋いで、ふたりで帰ろう。



fin. 20110422


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