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□学パロ[通学] ラビver.
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「どわあっ……!」
「っ……!」


背後からどっと押し寄せる人の波にあっという間に入ったドアとは反対のドアのとこまで押し流される。毎度のことながら日本の通勤ラッシュは過酷すぎるさ。

「あっ……」
「大丈夫さ?アレン」

ぎゅうぎゅうになる一歩手前で一緒に乗り込んだ後輩の手を引いて自分の前に庇う。その間も背中から押し寄せる圧迫感は増すばかりで腕をドアに付いてそれに耐えた。

「ラ、ラビ先輩…」
「気にすんなって」

オレの腕の囲いの中で申し訳なさそうな顔をして見上げてくる後輩に笑ってやって、足腰にもグッと力を入れた。
これでどうにか今日もアレンを守れそう。オレがぐしゃりと潰されなければの話ダケド…。
オレらが乗り込む駅ではイスはモチロンつり革まで埋まってることが日常茶飯事で。それでも通路に入り込めた日はまだラッキー。たまによろけるアレンを支えてやりながら揺られてりゃ一駅先の学校前の駅まで着く。ただ今日は生憎、そっちも定員オーバーでこうして朝から押しくら饅頭押されて泣きそうな状況なワケ。ちょっとそこのオバサン、オレの脇腹にカバンの角突き刺さってるさッ。

『3番線から、電車が発車します』

聞き慣れたメロディと共にプシューと音がしてドアが閉まる。ま、ここならここでカワイイ後輩が痴漢に合う可能性はゼロだろうからそれはそれでお兄さん安心。

「っと……」
「っ……」

ホームを滑り出す瞬間にぐらりと揺れる車内。より密度が増してアレンの額がオレの胸に触れ合うほどに。

「……っ」

さすがにちょっと気まずくてふと顔を上げた。

(…あ、)

澄み渡る、蒼。車内のむさ苦しさなんてちっとも知らない様子で太陽が眩しいくらいに大空で笑ってて、オレもほんの少しだけ目を細めて笑った。
さてさて今週も始まりました。始まっちゃいました。部活に恋に勉強にアレンに!今週もフルターボで頑張っていくさぁー!

「あ、今日はお昼どうしますか?」
「ん、そうさね〜」

目と鼻の先にある頭がひょこりと顔を上げて話し掛けてくる。

「ユウが何も買ってきてなかったら学食にすっか」
「はい!学食だとジェリーさんがおまけしてくれるから助かります」
「あれはおまけってレベルじゃねェと思うさ〜アレン限定スペシャルセットさ」
「そうですか?」
「昼休みになったらユウと一緒に迎えに行くから待ってて」
「別に食堂でも…」
「またまた〜アレンが来るの待ってたら昼休み終わっちゃうさ」

もう一人で行けるようになりました!!そう言ってムキになるアレンが可愛くて。
何気ない会話なのに電車の中だから必然的に小声になって、ナイショ話でもしているようでどこかこそばゆい。
相変わらずオバサンのカバンはオレの脇腹にグッサリだけど、長い睫毛を見下ろしながら一人小さな幸せを噛み締め――

「っってえ!!!」
「!?」

電車がぐわりと揺れた瞬間、誰かの肘と思われる部分がオレの背骨にエルボーを食らわす。ッッ〜!内臓にジワリと広がるようなこの痛み。
すぐにヘラリと笑ってアレンに大丈夫さ、と囁いた。
もしこれを食らわされたのがアレンだったら…、人身事故が起きてたさね、ココで。

「ラ、ラビ先輩!」
「ん?」
「次は僕が外側になりますから…」
「へ?アレンが…?」

痛みが和らぐのを待ちながらこの白くて細っこい後輩に匿われる自分を想像しようとするけれど、いくら頑張ってもモザイクが消えてくれない。無理さ。こんだけ身長差あるのに絶対ムリさ。

「アレンそれは……」
「異論は認めません」

意思の強い瞳がキラリと光る。アレンに匿われるオレ。取りあえずスゴく窮屈であろうことは想像できた。

「ゎあっ……」
「おっと、」

『まもなく具零駅、具零駅〜お出口は右側です』

ホームに車体が滑り込む。またガタリと一度だけ大きく揺れてよろけたアレンがぼふりとオレの胸に倒れ込んできた。

(うっわ〜)

アレンの身体やわらけーてかなんかいい匂いするさーてか軽ーこれで同性なんて詐欺としか言えない。

「す、すいませんっ…!」
「ダイジョーブダイジョーブ」

頭をぽんぽんと撫でてやってそのままぎゅっと抱き締めた。開くドアはこっち側。アレンが落っこちたら大変さ!…ってことにしておく。

『具零駅〜具零駅〜』

プシューと開くドア。真新しい空気がぶわりと身体を包み込む。

「行くさ!アレン」
「はい!」

オレは君が好き。
まだ秘密だけど。
オレは学校が好き。
バカみたいに楽しい学校が。

「…あ、やべ!今日英単あるの忘れてたさ!」
「追試…ご愁傷さまです」
「いやいやまだ落ちるって決まったわけじゃねーから!こうなったら机にスペル書いとくしか…」
「ズルはいけませんよ!」
「いやいやユウだってこの間指と指の間に漢字書いてるとこオレ見たさ!!」
「ええ!?」


君と一緒に行ける学校は、オレの世界で一番の宝物。



fin. 20120520

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