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□学パロ[通学] ティキver.
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pu pu――!


クラクションを叩くと水色の傘が振り返る。そしてオレの顔を見てあからさまに嫌な顔をした後ぷいっと前を向いてしまった。

「おいおい少年ー!シカトはヒドいんじゃないのー!?」

慌てて窓を下ろしてそう呼び掛ける。ぴちゃりと少しだけ髪が雨で濡れた。

「朝からストーカーとかやめてください」

ゆっくりと車を走らせて少年のすぐ傍にまで近づく。

「いやいや、雨のなか懸命に登校する健気な生徒をたまたま見つけたから、心やさしーセンセーが車で送迎してあげようとしてるだけ」
「あなたの家こっちじゃないでしょう」

オレのことなんて気にも止めない様子で歩き続ける少年。絶妙な力加減でアクセルを踏みながら少年と同じ足並みで住宅が建ち並ぶ細い道を進む。
そりゃそうだ。今日はわざわざ少年に会うためにこんなまどろっこしい道を通って来たんだから。

「細かいことは気にすんなよ、乗ってけって」
「嫌ですよ、そんなヤクザみたいな黒塗りの車」

おおう痛烈。オレの愛しのヴィーナスをヤクザみたいとは。

「誘拐なんてしないから」
「当たり前でしょう」
「ほらカバン濡れてる、乗ってけよ」
「結構です」
「乗らないとチューするぞ、ここで」
「いい加減にしてください!!」

やっとのことで足を止めてくれた少年。ヘラリと笑ってやるとキョロキョロと辺りを気にしたあと深い深いため息をついて後部座席のドアを開けた。

「そっち?」
「あなたの隣なんてイヤです」

全くワガママなお姫さまだコト。そんなことを思っていると雨音で消されてしまいそうなぐらい小さな声で『お願い…します、』と言われてしまった。渋々感丸出し。でも礼儀を忘れないそんなとこも魅力的。

「初乗り2キロまで680円デース」
「降ろしてください」

つれねーなーとバックミラー越しに声をかけてアクセルを踏んだ。フロントガラスに貼り付く水滴が一気に増してどんよりとした空気を切り裂いて進み出す。

「………」
「………」
「………」
「…少年ってさ」
「……?」
「雨、嫌い?」

ハンドルを操りながら出来るだけ重たくならないようにいつも調子で聞いてみる。確信なんてなかった。ただ…なんつーか、今日は少年の表情がどこか引っ掛かった。

「……」
「別に、答えたくないならいいんだけどさ」
「………」
「……、ところで少年、今日の一限って――」

「雨が嫌いなわけじゃありません。どちらかというと、空…が」

雨の日の空が、キライです。

バックミラー越しに少年の顔を盗み見た。コトリと窓ガラスに頭を預けて視線だけで空を見上げていた。次々とガラスを流れ落ちる水滴が、少年の顔に淡い影を作り出す。

「………」

オレもフロントガラスから空を仰いだ。世界を覆い尽くすかのような、灰色。重苦しい雲が今にも落ちてきそうだと思った。

(…なにか、あったのか)

こんな空の日に。
さすがにそこまで聞こうとは思わなかった。踏み越えてはいけないラインはこれでも見えているつもりだ。

「そっか」

自分から聞いといてあまりにも素っ気ない返事。でも少年は特に気にした様子もなかった。

「――」
「……ティキ、は、どうなんですか」
「オレ?」

ふと投げ掛けられた質問。相変わらず少年は窓の外を見たまま。

「…嫌いじゃねーよ。こうして少年に会いに来る口実が出来るわけだし」
「…計画的なストーカーですね」

ハハッ、と声を上げて笑ってやる。少年の雰囲気がさっきよりも柔らかくなってることに気がついて柄にもなく少し嬉しかった。

「ここで、いいよな」

ウインカーを出して学校の裏の細い道に入り込みその道端に静かに車を止めた。学校ってこんなに近かったっけ。

バサリと傘を開いて車から降りた少年が運転席の方まで近づいて来るのに気がついて窓を開ける。

「不本意ながら、ありがとうございました。今日は靴下が濡れて不快な思いをせずに授業を受けられ――」
「じゃ、お駄賃イタダキマス」

来るもんが悪い。思いきり腕を伸ばして後頭部を掴み皮肉混じりの本音を溢す少年の口を塞いでやった。
さすがにここじゃマズいかもしれない。いくら人目につかない場所を選んで停めたからって、もし誰かが見ていたら。
まず間違いなくオレの教免はふっ飛ぶわな。

(でも、)

今なら傘で見えないだろう。そういうことにして苦しげに歪む瞳を見つめながら少し長めに触れるだけのキスをした。水色の小さな世界の中で。

「680円、いただきました」
「っ……!!!」

真っ赤になった白い顔。曇天に影を落とされていた表情が人間味を帯びる。

「誰かに見られたらっ…!!」
「オレのせいにすればいいだろ?別に付き合ってるわけじゃないんだからさ。ムリヤリされましたって」
「っ……」

ああどうして俯いちゃうかな〜そういうことされるから期待しちゃうんだよ。

「いってらっしゃい」
「………」
「ほら、下がらないと轢くぞ。このままだとオレ朝の会議に遅刻――」

「…6万8000円分の価値はあったと思います」

それだけ言ってふいっと校門に向かって行ってしまう少年に開いた口が塞がらない。遠のいていく水色。

「オイオイ……」

いくらオレが馬鹿だと名高くてもこれぐらいの計算なら出来る。

「あと99回、送ってやらねェといけねーじゃん」

窓を閉めて再びハンドルを握った。朝の会議は、サボることにした。こんな気分のいい日に会議なんて出るもんじゃない。

「ククッ…」

耳まで真っ赤に染まった澄まし顔を思い出すと笑いが止まらない。きっと今日の一限は、授業どころじゃないだろう。

「…それはオレも同じか」

アクセルを踏む。近場のコンビニで煙草でも吸ってこよう。


ピシャリと、水溜まりを弾く音がした。


明日も君が嫌いな雨だといい。



fin. 20120528

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