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□キミの元までCOUNTDOWN!!
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5!
自動ドアをぶつからんばかりの勢いで通過する。
4!
うわ〜!!なんでこういうときに限ってエレベーター最上階にいるんっスか!?
3!
荒い息を整える時間も惜しくて階段を一個飛ばしでかけ上がる。足が長くてよかった!
2!
自宅の玄関が見えてきた。駅からずっと握り締めてきた鍵を捩じ込んで、ドアを引き開ける。
1!
あ〜!!背後で脱ぎ捨てた靴が吹っ飛んだ気配がするけど気にしないっス!
あと、あと、
0!!
「黒子ぉっち!」
バン!と開けた廊下から繋がるリビングの扉。電気はついてた。光は洩れてた。だからいるだろうと思ってた。
「あ、あれ……?」
でもそこには見慣れたリビングが、いつも通りあるだけで愛しい子はいなかった。
不思議なものでも見るように誰も座ってないソファを見てから、ガクリと肩を落とした。
ドサッとスクールバッグが床に落ちて倒れる。
(帰っちゃったんすか……、)
疲れと一緒に溜め息を吐いて項垂れる。
今日は金曜日。黒子っちと会う約束をしていた。黒子っちは部活が終わったあとオレんちに。
オレは今日、珍しいことに午後練がなくてその代わり撮影が入ってた。いつもの東京での撮影じゃなくて近場のスタジオでだったからすぐ終わるはずだった。
でも、でも、一緒に写るはずの女の子がなっっかなかこなくて撮影時間がずれて込んでしまった。
『オレんちで待っててほしいっス!今日は早く帰れると思うんで☆一緒に夕飯食いましょう(*≧∀≦*)つってもオレ、ろくなもの作れないんスけど(笑)』
自分が打ったメールの内容を思い出してまた溜め息。
ふらふらと壁に寄りかかって、そのままズルズルと座り込んだ。
「どこが早いんスか〜〜っ」
鬱陶しい前髪をくしゃりと握り締める。もう十時を越えていた。本当ならもう三時間は早く帰れるはずだった。
モチロン遅くなるってメールはしたけど返信はこなかった。黒子っちは時間とか約束には律儀なタイプだから、拗ねて帰ってしまったのかもしれない。てか絶対そうっス。
「〜〜っ」
数日前から楽しみにしてた分落胆も大きい。
あ〜なんで今日に限って。モデルとして、女の子やスタッフさんには笑顔で挨拶して帰ってきたけど内心どうにかなりそうなぐらい焦りと苛立ちを抱えてた。
「……?」
ふと、何かを思いついたように顔をあげる。なんだ、なんだ。何かが、頭の端に引っ掛かった。
脳裏を過る光景。記憶の糸をゆっくりと手繰り寄せながら、くるりと振り返って玄関まで四つん這いで移動する。
「あ、」
やっぱり。そこには見慣れた靴が。でも自分のより一回り、いやもっともっと小さいスニーカーがあった。
「黒子っち!」
思わず名前が口を出る。
上半身を乗り出してついでにさっき吹っ飛ばした靴を拾ってそのスニーカーの隣に揃えて並べた。
あ、鍵も閉め忘れてたっス。
すくりと立ち上がって、さっきまでとは打って変わってオレの顔には隠しきれない笑顔が。
急ぎすぎて見落としてた。黒子っちはまだここにいる。いてくれてる。
大して広くもないオレのマンション。トイレに行ってる気配もない。
そしたらあと考えられるのは、ここの部屋だけ。
玄関から真正面にあるリビングの扉。その手間、左の壁にもうひとつドアがある。
大きい音を立てないように気をつけながらガチャリとドアノブを捻って左手でそっと押し開ける。
「黒子っち…」
あ〜帰ってきてから何回目になるんスかね。スタジオから、つかスタジオ内でも心の中で繰り返していた数もいれたら軽く1000回は越えそうっス。
そろりと一歩だけ踏み入った部屋の中。明かりは付けっぱなしで、照明に照らされた白いシーツ、ベッドの上にその子はいた。
後ろでにドアを閉めて足音を殺して近づいた。
「〜っ」
その顔を見ただけで全身から力が抜けるいうか、安心して逆に疲れがやってきた。
よかった、よかった、ほんとよかった。
起こさないように気をつけてベッドの端に腰かける。
そっと手を伸ばしてその白くて柔らかい頬に触れた。
すーすーと規則的に響く寝息。長い睫毛をじっと見つめながら親指で優しくその頬を撫でた。
「ありゃりゃ」
視界の端でチカチカと点滅する光に気がついてそれに目を遣る。枕元に置かれた黒子っちのケイタイ。メールの受信を伝える水色のライト。
きっと画面を開けばオレからのメールを伝えるメッセージが表示されるだろう。
待ってる間に寝ちゃったんスね。
「…お待たせ、したっス」
黒子っちと過ごせる折角の時間だけど遅れたのはオレで、わざわざつい顔が緩んじゃうくらいすやすやと寝ている小動物を起こす気にもなれなくて。
しばらくこの寝顔を堪能しながら待っていようと胸の辺りにまでずれていたブランケットをかけ直してあげようとしたところで、あるものに気づく。
緩く体を丸めて眠る黒子っち。その腕の肘の下に目を引く色が。
「えっ…」
最初に感じたのは驚き。そのあと込み上げて来るような嬉しさが押し寄せて思わず涙腺まで緩みかける。
黒子っちの腕の下、抱き抱えられるようにしてそこにあったのは先日オレが初めて表紙を飾った雑誌だった。
「ッ〜〜!」
かわいすぎる。何かをぼふぼふ叩きたい衝動に駆られるけど生憎叩くものがない。じっとしていられない。
取りあえず火が出そうなぐらいに熱くなった顔をバッと手で覆って俯いてみるもののそんなことじゃ治まってくれなかった。
(ヤバいっ…!)
どんだけ可愛いんスかね。大丈夫なんですかねこの生物。
なんていうか公共の場に晒して。
ゆっくりと振り返って、指と指の間からもう一度その寝顔を盗み見た。
「………」
浅葱色の綺麗な瞳は今は閉ざされて見えない。それでも緩やかに上下する胸が、薄く開いた唇が十分すぎるくらいにオレを惑わす。
あ、伸ばした手が震えてる。
そっと、またその頬に、額に触れて顔にかかった柔らかな髪を輪郭をなぞるようにしてどかしてあげる。いっそう覗いた、あどけない寝顔。
思わずゴクリと喉が鳴ったのは仕方がないと思うんス。男として。
ここまでくると喜びと照れくささとは別の感情も芽生え始めて、悪戯でもするような気持ちで手をブランケットの下に潜り込ませた。
律儀にズボンの中に入れられたYシャツを探り当てて引っ張り出す。そのままスっと手を差し入れるとぴくりと震える身体。
(うわ〜)
いちいち反応が可愛すぎてどうしていいか分からないっス。どうしていいか分からないってか手が止まらないというか。
まじまじと横たわるその身体を見つめながら肉つきの薄い腹に手を沿わせてさらに上へ上へと撫で上げていく。
「んっ……」
悩ましげに寄せられた眉毛。か細く上がった呻き声。
「うわ〜」
今度は口から声が出てた。
ひとつひとつの動作から目が離せなくなる。
「……っ」
悪いとは思いつつも、もう止められそうになかった。
起きてしまうかもしれない、そんなスリルすら楽しみながら掠めるように胸の突起に触れる。
ビクリと先程より大きく跳ねた身体にオレの気分は良くなる一方。
「ふ、んっ……」
鼻から抜けるような甘い声に無意識の内に口元がつり上がる。第二間接の背でぎゅ、と押し潰すと堪えるように薄い唇が結ばれて穏やかだった表情が崩れる。
その顔すら綺麗で可愛くて仕方がない。
「…黒子っち」
身を屈めて耳元で囁いた。低く甘く意識して。その間も胸を、腹をまさぐる手は止めない。
「っ…き、せくっ……」
わ〜!ちゃんとオレだって分かってくれてるんスね。
苦しそうにシーツを握る手は情事を彷彿とさせて、オレの指に従順に反応する様は欲を満たしては増幅させる。
その滑らかな肌を指の腹で強弱をつけてなぞって、時おり焦らすように胸に触れ続けた。
「っ……」
もどかしげに両足を擦り付けた黒子っちにクスリと笑って手を抜いた。
なんつーか、オレの日頃の努力の賜物っスね。
ずっとずっと、黒子っちのことは好きだった。それは彼を認めた時からか、天才と呼ばれるチームメイトとのバスケが堪らなく楽しくなった最中か、はたまた出会った時にはもう――。
今となっては分からなかった。
それでも降り積もっていく想いとは裏腹に、いつも物静かで無表情な黒子っちの考えていることは、いつもどこか分からなかった。
それが怖くて思いを伝えられないまま別れてしまった。
再会してこういう関係になって。掴めない雲のような存在だった黒子っちが今は、オレの手ひとつで。
「……」
グ、と中指をネクタイにかけて緩める。満たされる独占欲。自然と無表情になる顔。
黒子っちの襟元に手を伸ばしてそのYシャツのボタンに人差し指の先が触れようとした時だった。
†