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□恋など忘れた *
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お前が悪い。



「ぁっ……ぁっ……ァ…あっ……!」
「……」


お前が、余りにも怯えた目で俺を見るから。だから少し、食ってみたくなったんだ。

「ふっ……ぅぅ……ッ、んッ……」
「腰、引いてんじゃねぇよ…」
「ッ……!はっ……」

怯えられる理由はよく分かってた。そりゃ初対面も同然であんだけボコられりゃ誰だって参るだろう。


躾に一番効くのは痛み。


根拠の無い不安ばかり吐き散らし可能性を追い求めようともしない凝り固まったクズ共を前に咄嗟に言い放った言葉だが、あながち間違ってはいなかったようだ。

「ぃッ……、ゃっ……あッ……!」
「…あんま締めつけんな、持っていく気か」

見下ろした背中は新米とは言え訓練を受けてきた兵士とは思えないほど白かった。
まだ、傷も少ない子供の背中。

「……」

上官が自分より階級の低い者を相手に、なんてのはよくある話だ。
訓練の時にその手で上官に取り入って内地に引き上げられる女も時折見かける。

たまたま溜まっていただけ、それ以外に理由なんてなかった。

「……動くぞ」

幾分か呼吸が整ったのを見計らってゆっくりと腰を揺する。

生意気にも身長は俺より10センチも高いくせして軽すぎる体重に納得いくほど触れた腰は細かった。

身体を支える両足は震えっぱなしで、手に至っては随分と前からシーツに白い波を立たせるだけの役割に転じている。

「っ――!?ひっ……ゃ、あ゛ッ……んっっ……」
「……」

可哀想だとか、そういった感情は一切芽生えなかった。罪悪感も、勿論。

だからと言って快楽に溺れるわけでもない。頭の片隅は常にどこか冷えていた。

歳を取るとはこういうことなのか、と何処か他人事のように思った。

「ふっ……ぐ、ゥっ……ん……っ」
「…オイ、エレンよ」
「ッ……んん゛っ…!はっ……ッぁ」

途端にくぐもった声に眉を顰める。この声はあまり好みじゃない。

上体を追って手を伸ばすと唐突に繋がりが深まる。今上がった声はなかなか好みだ。

自業自得だと毒づきながら人差し指と中指で唇に触れると案の定そこは固く閉ざされていた。

「……切れちまうだろ、開けろ」
「ッ〜〜んんっ…」
「逆らうな…、早くしろ」

渋々、最後の悪あがきを見せるようにゆっくりと開かれたそこに指を突っ込む。

「噛んだら殺す」
「っ……!!?はぁ゛……ッ」
「お前が不穏な行動を見せた、と言えばなんとでもなる」


分かってるだろう?自分の立場。


耳元で囁けば絶望の淵を見たように歪む金の瞳。

地下牢であれだけ威勢のいいことを言っておいて今のこの様はなんだ、と底知れない優越感が満たされるのを感じる。

「んっ……!あっ……はっ……ァあ……!!」
「……ッ」

上体は下げたまま腰を打ち付ける度にさっきよりずっとだらしない嬌声がひっきりなしに上がった。指には温かな唾液が絡みついていく。

ゴリ、と指先に当たった鋭利な感触に本当に生えてやがんのかと自分がへし折った奥歯を思い出す。

「んあっ……!!」
「……」

あの時はやり過ぎたかと思ったがこうして生えてくるなら気にすることもなかった。

「――」




『なら、よかった』




くだらないことを思い出す。
どうしてあんなことを言ったのか。

『必要な演出だったって、理解してますから』

「……っ」

どうしてそんなことを言うんだよ。


憎まれて当然のはずだろう。
今だって。

「っ……?へっ…ひ、ちょ……?」

顔を見られたくなくて、振り向けないよう追い詰めるように中を強く穿った。

「んっ――!!!」

仰け反る背中に、見開かれる目に、口角をつり上げる。

律動は止めないまま口内から指を引き抜いて濡れそぼったそれで先走りを溢すエレン自身に触れた。

ギュ、と握り込むと息を飲む気配がする。

そろそろかと手を速めれば呼応するように中が蠢いた。熱く、深く、その形に沿って纏わりつくように。

「っ……!!はあっ……!あ゛……!やっ……!んっ…ふ、んっ…んっ――!!」
「……っ…ク」

ズクリと増した圧迫感と次いで押し寄せるような快楽の波に奥歯を噛む。
がくりと項垂れれば白い背中に己の汗がポタポタと垂れた。気づけば髪も汗ばんだ頬に貼りついていて鬱陶しい。


「ぁっ…、ぁぁぁ……」
「……なあ、エレン」

繋がったまま上体を折る。

「気分はどうだ……?」

ぴとり、と、背中に胸がひっつくくらいに。

「聞こえてんだろ……?エレン」
「っ……」

その黒髪に頬を寄せる。

「今ココに、何されたか分かるよな……?」

唾液と精液で汚れた冷たい手をそっと、下腹部に添えた。


「お前……、孕んじまうかもしれねぇなぁ……?」
「っ――!?」


地を這うようなその声を、耳に。


見開かれた瞳は音もなく涙を流す。

そんなはずがないことぐらいコイツにも分かっているはずだ。ただ、怖いのだろう。
震える身体が物語っていた。
涙はとどまるところを知らずに溢れ続ける。


「ど、うっ…し、て……ッ」


嗚咽と涙に押し潰された切れ切れの声が耳朶を打つ。


「り、ヴァっ……いっ……へっ…いちょっ……」
「………」


ほら、また。

怯えきった目が俺を見る。


「………」


濡れた黄昏を目に映すことは出来なかった。そこに映り込んだものを見るのが怖かった。


「……黙ってろ」


返す言葉も分からずに。

何故。

そんなこと、俺が聞きたい。



fin. 20131003

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