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□Lost gleam
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誕生日おめでとう!ラビ。


ずっと楽しみにしてきたこの言葉を、ついに伝えられる日がやってきた。リナリーに誕生日を聞いたその日から、ずっとうずうずしていたのだ。予定なら、ラビはもう任務から帰って来ているはずだ。駆け足で階段を登って、司令室を目指す。取りあえず報告書を提出して、それから――。

幼い頃から師匠と各地を旅する生活が続いていたから、友達と呼べるような存在ができたことは一度もなかった。仲良くなれたとしても、別れはすぐにやってきてしまう。
当然、誕生日を祝ったり、祝われたりすることもなく、僕の知っている誕生日は、ずっと師匠のだけだった。それが、教団の一員になって、色んな人の誕生日を知って、そして、大切な人ができて。

今日はその人の誕生日なのだ。

「――っ」

自然と顔が綻んでしまう。今日のために、プレゼントも用意したのだ。こんなの初めてだから、何を送ればいいのか必死で考えて、マフラーをあげることにした。
ラビを思い浮かべて真っ先に思いついたのがオレンジ色のマフラーだった。いつもあの色ばかりつけているから、たまには他の色もどうだろうと落ち着いた色のマフラーを選んでみた。
季節外れだろうかと悩んだけど、ラビは今とある国の雪原に調査に行っている。エクソシストは世界中色んな場所に派遣されるからいいだろうと、今回の任務先でこっそり買ってしまった。
きっと似会うだろう。喜んでくれればいいんだけど――。

「聞いたか」

突然の声に足を止める。振り返れば二人のファインダーが廊下の隅で話をしていた。どうやら僕に話しかけた訳ではなさそうだ。邪魔をしてはいけないと踵を返そうとした瞬間――。

「次の任務、エクソシスト様が変更になるらしいぞ」
「そうなのか?俺はまだ聞いてない」
「ラビさんが負傷して、代わりに神田さんが出るらしい」

「えっ……」

「心配だな」
「室長は大事をとって、と言っていたから、大きな怪我ではなさそうだが…」

聞き終わる前に、気がつけば足が動いていた。胸がキリキリと痛んで、息が深く吸えない。

(どうか……)

どうか、無事でいて。ラビは僕より経験も豊富だし頭も切れる。そうは分かっていても、胸に広がる大きな不安は止まらない。医務室に着く頃には、走っていた。上がった息を整える間もなく扉を開ける。

「ラビ!」

並べられた真っ白なベッドの一番奥で、ラビは静かに本を読んでいた。その姿には大きな外傷はなく、ほっと胸を撫で下ろす。

「ん…?」
「ラビ…心配しました」

歩み寄るとようやく気が付いたのか、顔を上げる。本を読んでいる時はいつもこうだ。

「あんまり集中しすぎると、体に触りますよ。婦長さんに怒られても知りませんからね」

笑いかけた僕にラビは不思議そうな顔をする。

終わりの音は、唐突に――。


「ごめん…アンタ、誰?」


世界が僕だけを置き去りにして、遠のくような気配がした。


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