てにす
□肉食獣に狙われた獲物の気持ちがわかった。
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遂に朝が来てしまった…
マイダーリンからの、あの熱烈(?)なキッス事件から1日経ったよ。
もう、登校拒否していいかな?
いいよね!
あたしゃ、ヒッキーになりたいよ!
あ、16才で歌手デビューした某有名歌姫の事じゃないからねっ、ってこのネタわかる人はあたしと世代一緒だわ…
「おらぁっ、あんたぁ!
毎日毎日あたしを困らせんじゃないよ!」
はい、今日もお決まりのパンチパーマなオカン参上。
三日目になるともはや慣れて、この時間が楽しみになってきたよ。
「その長い髪、坊主にしたろか?」
あ、嘘です。
全然慣れませんっ
うら若き乙女がオカンのパンチパーマを飛び越えて、坊主にされちゃうので、頑張って秒で起きます!
「マイマザー、さーせんっ」
とりあえず、ジャンピング土下座して、謝ったらオカンに鼻を鳴らされたよ!
え、何、めちゃくちゃアホを見るような顔をして、バカにしたよね、今っ
ねぇっ!
「はっ!?」
今日は家を出たら、学校だったけど、何故かいつもと景色と言うか、シチュエーションが違う。
何だこれは、と思って辺りをぐるりと見たら、自分、キャンパスの前に座って、筆を持ってたんだけどぉぉぉ??
めちゃくちゃ意味不だわ…
ここ、絶対美術室だし。
「本郷、どうかしたのか?」
急に背後から声をかけられ、結愛は数秒固まる。
それもそうだ、声の持ち主が真後ろにいて、背中にその彼であろう胸板の感触があるんだから。
「ほぇ…?」
ホワイ?
何であたしはこの低音ボイスの彼から、バックハグのような形で包まれとるんだ…
記憶がない一瞬で、一体何が起きた!
誰か説明プリーズっ
「昨日も言っただろう?
この部分はこうするんだ…、いいな?」
キタァァァァ!
耳元で囁かれ、貰いましたぁぁぁ!
なんじゃ、この低音エロボイスっ
ちょ、待てよ!
つい、キ○タクになっちゃったじゃねぇか。
いや、そうじゃなくて、何だよ、この孕みそうな良い声はっ
ふざけんなよ、めちゃくちゃドキドキするじゃねぇかっ
畜生、すっげぇ好みの声だよ、どうしてくれんだよ!
つか、昨日も言ったって言ってたけど、全く会った記憶もなければ、マイダーリンとキッスした事しか思い出せないけどね!
「本郷?」
低音エロボイスは結愛が全く反応しない事を不思議に思い、バックハグな体制から、顔を覗き込むように見た。
「ひぃいぃぃぃ、イケメンっ
声もタイプだけど、顔もめちゃくちゃ硬派でヤバスっ」
バチリと互いの目が合い、低音エロボイスこと、手塚国光が驚いた表情をする。
男前で、その上に眼鏡をかけており、正直、結愛のタイプど真ん中な訳で。
手塚、あの手塚がいるよ、とか訳のわからない言葉を発してはブツブツと独り言を言っている。
そして結愛の顔が見る見る、赤くなっていった。
「……」
国光の顔が急に真剣な物へと変わり、腹でも壊したのか、と声をかけようとした瞬間、背後から抱き締められた。
「!?」
結愛は驚きの余り、体が硬直してしまう。
もちろん、動悸、息切れも半端ない。
今なら死ねる、そう思うくらいに幸せだ。
こんな男前にバックハグされたら、そりゃ嬉しいし、妊娠するくらい女性ホルモンが分泌されたであろう。
それくらい、結愛の脳内は大変な事になっていた。