てにす

□姉が変態ですが…
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結愛がスキップで大学から帰って来ると、玄関にある小さな靴を発見。

「……む…!?」

眉間に皺を寄せ、小首を傾げる。
顔の角度を変えようとも、視界に映る物は変わらない。

「……何だ、この林家○ー子みたいな靴はっ…!」

結愛がわなわなと震え、見据えた先にあるもの。
それは偉く可愛らしいピンク色をした、夏物らしいサンダル。
だがサイズは大人に比べるとかなり小さいが、それでもその人物が女の子であると予想させる。

「っ……、あたしに隠れて、可愛い若を誘惑か!?
最近の糞ガキはマセてやがんなぁっ
あぁ〜んっ?」

結愛はピンク色をしたサンダルを手に取り、壁に思い切り叩きつけた。
びたんと音がなり、可哀相なくらい折れ曲がるそれを見つめ、満足そうに鼻で笑う。

「女と女の勝負だっ。
林家○ー子、覚悟しやがれっ」

親の仇を見るような目で、少女がいるであろう部屋を睨み付け、勢いよくスニーカーを脱ぎ捨てた。
そして陸上選手の如く、長い廊下を猛ダッシュする。
行き着く先は、やはり我が愛しの弟の部屋。
向かい合うように、床に座る二つの影。
その手にはDSがあり、互いに対戦ゲームをしていた。

「わぁ!
やっぱり若くん、強いっ」

彼の友人であり、ご近所に住んでいる可愛らしい女の子、ほとり。
その言葉に満更でもないとばかりに、嬉しそうに笑う若。

「ほとりはもう少し、防御力を上げた方がいいぜ。
今度、俺のカードをあげるよ」

少女は満面の笑みを浮かべ、お礼を言う。
するとまたも若は照れ臭そうに、笑った。
馬鹿な姉がいない空間に幸せを感じていたのもつかの間、急に頭に信号のような発信を感じ、持っていたDSを床へと置いた。

「若くん?」

ほとりは不思議そうに首を傾げる。
若口元に指を宛て、瞳を細めた。

「……来ました、か」

良からぬ気配を感じ、用意しておいたトラップを発動させる為、小型リモコンを手にする。

「何が来たの?」

訳のわからないほとりを気にする事なく、赤いスイッチを押した。
すると扉の向こうから聞こえる、何かが壁に刺さった音と情けない悲鳴。
そして慌ただしかった足音は消え、静まり返る廊下。

「仕留めましたか?
いや、でもあの人があれくらいでくたばる訳がない…」

独り言を呟き、今度は黄色いスイッチを押した。

「……まぁ、これで今日は身動きとれないでしょう」

そう言って、廊下へと続くドアを開く。
すると案の定、予想していた人物の姿はなく、あるのは槍に引っ掛かった洋服の切れ端のみ。
床下は開き、そこで口を開けているのは竹を尖らした何本にも渡る棘の山。
落ちたら間違いなく無事では済まされない。
だがそんな小細工、結愛にしてみたら朝飯前。
頭は弱いが、運動神経だけは一流の姉。

「串刺しを期待していたのに…、本当に残念です」

天使な笑顔をした悪魔。
それは若を指すのだろう。
だが、ほとりは何故か感動。

「若くん達って、凄く仲良しなんだね。
いいなぁ〜、楽しそう!
うちなんてお兄ちゃんだから、忍者ごっこさせてくれないんだよぉ」

かなり的外れな事を言っているが、そんな天然なほとりだからこそ、下克上若の友人をやっていられるのだろう。
彼女からしたら、これはかなり楽しい遊びに映るらしい。
何せ、"忍者ごっこ"なのだから。
だがほとりよ、少し考えてくれ。
これは生命の危機に遭遇するくらい、危ない橋だと言う事を。

「早く、引っ掛かってくれませんかねぇ…」

若はにやりと黒い笑みを浮かべるのだった。
その隣では可愛らしく白い笑顔で、槍をつんつんしているほとりがいたとかいないとか。
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