短編
□お騒がせな謹賀新年
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▼お正月企画 1/4
「またねー!和泉ねーちゃん!」
「うん,今度はお盆にお婆ちゃんちで会おうね」
一生懸命手を振る子どもたち。
その満面の笑みに,和泉は若干引きつった笑顔で手を振り返した。
そして玄関の扉がしまった瞬間,
「………………つっかれたぁ」
思いっきり脱力した。
「やべ。リアルに『orz』のポーズしてる人初めて見た」
「それが今の私にかける言葉か!?」
「お疲れっす」
「『お疲れっす』――じゃないわよ!」
彼女は勢いよく立ち上がった。
さっきまでの疲労感はどこへやら。
「なんであんた手伝わなかったのよ!」
「いや,俺受験生だし。もうすぐ全県模試もあるし。勉強しなくちゃだから」
「とか言ってどうせモンハンしかやってないんでしょ!?」
ぎくり,と俊輔の肩がはねたのを姉は見逃さなかった。
「ほーら,やっぱり図星なんじゃない。何が勉強しなくちゃよ」
「……スミマセン」
「怒涛の三が日を手伝わなかった罰として,今すぐ年賀状を取りに行きなさい」
「へいへい」
「ダッシュ!」
しばらくして,ポストから俊輔が返ってきた。
手には年賀状の束が3日分。
「さて,仕分けしなくちゃね」
「ねーちゃん蓮舫さんに似てる(笑)」
「ぶん殴るわよ」
弟に睨みをきかせてから,和泉は貯めていたの年賀状を父・母・自分・俊輔の4つの山に分けた。
「あら俊輔,女の子から来てるじゃない」
「勝手に見んなよ!」
見えたのよ,と笑いながら自分の分を手にする。
「可愛い名前ね」
「もう喋んな!」
弟の叫びを背中に受けながら,和泉は自分の部屋のドアを閉めた。
「俊輔も青春してるのねぇ」
なんて呟きもほどほどに,持っていた年賀状を机に並べながら一枚一枚見ていく。
中学の友達や担任,転校していった人――懐かしさを誘う。
もちろん高校のクラスメートから来たものだって嬉しい。
あいつ……手抜きしやがって……。
やっぱこの子の字は綺麗だなぁ。
え,これ手書き!?クオリティ高!!
無意識のうちに,ついつい百面相してしまう。
だから年賀状は一人でしか見られない。
楽しんでいるうちに,最後の一枚となった。
ふわふわした兎のイラストが印刷された,可愛らしいデザインだ。
差出人は誰だろう。
とりあえず裏を読み切ってしまおうと思い,結構綺麗な文字を目で追った。
『昨年はお世話になりました。これからもアメとムチの手ほどきをよろしくお願いします
そして,下の方に小さく書いてあった一言を見て,
「ぶっ!!」
思いっ切り吹き出した。
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