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□a cake and you
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【a cake and you】



聞き込みを終え瀬文が未詳に戻ると、自分の机の上に綺麗にラッピングされた箱が置いてあった。

「……なんだ、これ」
「おかえり瀬文くん」
「ただいま戻りました」

奥から現れた野々村係長はその箱を見て「あぁ、それね」と笑った。

「ついさっき、美鈴ちゃんが持ってきてくれたんだよ。君とは入れ違いになっちゃったみたいだね」
「美鈴ちゃんが…」
「お世話になったささやかなお礼だってさ。未詳の皆様でお召し上がりください、だそうだ」

てことは食べ物なのか。
けど、箱に入れる食べ物って――

「たっだいまーっす」
「あぁ、おかえり」
「もーっ、係長聞いてくださいよーっ!銀座のキャバクラに聞き込みしに行ったら客の1人が尻触ってきやがってってきゃあああああああああああ!!」

赤いキャリーバックを放置してだだだだだっと瀬文の机にかけよる。
うるせぇ、と瀬文は眉をひそめた。

「これっ!瀬文さんが買ってきたんですかっ!?」
「違う」
「まぁそうだと思いましたけど!」
「分かってんなら訊くな」
「あだっ」

びしっ、と当麻の後頭部に元SITの手刀が入る。

「で、この箱どーしたんすか?」
「美鈴ちゃんからだそうだ」
「へー!美鈴ちゃんから!さっそく開けて良いっすか?っていうか開けますけど」
「勝手にしろ」

だんだん面倒臭くなってきた瀬文だった。

「じゃあ遠慮なく。オープンッ」

当麻は弾んだ声で箱を開けると、「おおっ」と目を輝かせた。

「やっぱりケーキ!しかも超有名店!おまけにホールの14号!もー美鈴ちゃん大好きっ!」
(お前は旨いもんおごってくれる奴みんな大好きだろうが)
「あちゃー、なら僕は食べられないなぁ」

野々村係長は糖尿病を煩っているので、甘い物は御法度なのだ。

「なら私と瀬文さんで美味しくいただいちゃいますか。うふっ、ケーキっケーキっ」

当麻は食べ物のことになるとテンションが上がる。
ので、うざさが通常の倍以上になるのだ。

「そうと決まれば切り分けましょう!7対3の割合に!」
「てことはお前が3か」
「何言ってんすか瀬文さんが3に決まっいでっ」
「係長、包丁ってありますか?」

ボサボサ頭を叩くのと同時に尋ねる。
係長は柿の種を一つ口に投げ入れた。

「ないよ」
「……え?」
「必要ないと思ってね、まだ買ってないんだ」

確かにここでは需要性は低い。
しかし、そうなるとこのケーキはどうすればいいのだろう。

「仕方ない、つっつき合って食べますか」
「……まぁ、そうなるな」
「係長ぉ、フォークってどこでしたっけー」
「ないよ」
「はぁ!?」

今度はピーナッツを口に含む。

「フォークぐらいあるでしょう!」
「いやそれがね、『私に宿れ念力のスペックううううう!』って言って、スプーンじゃ飽きたらず、フォークも全部素手で全部折っちゃったんだよ」
「…………」

誰が、なんて訊くまでもない。
隣の舌馬鹿は「えへっ☆」と自分で自分の頭を小突いた。
正直言って、殺してやりたい。

「残された手段はただ一つ」
「何カッコつけてんだ馬鹿」
「はいどーぞ」

当麻は自分の机の引き出しからそれを出して瀬文に手渡した。

「……やっぱ、割り箸か」

警視庁内で、若い男と女が、高級ホールケーキを、割り箸でつつき合う。

シュールすぎる絵面だと、瀬文はため息をついた。



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