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□甘い菓子
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▽12/11
【月欠】



「原稿はどうした」
「……あのさ、電話に出たらまず『はい、もしもし』って応えなさいって常識、ママに教わらなかったの?」
「そんな常識は知らん」
「えっ、やっだーっ!恥ずかしーっ!」
「で、原稿はどうした」
「ねぇねぇ、ところでさ、今晩が月蝕って知ってた?」
「だから原稿は」
「ちょっとでいいから見てみなよ!すごい綺麗だよ!」
「人の話聞けよ」
「こっちの台詞だ」
「……確か今晩は曇りだって言ってなかったか?」
「そうなんだけど、丁度今いい感じに晴れてるんだよ」
「今?」
「just now」
「まさか薄着でベランダに出てんじゃねぇだろうな」
「いやそんなことないよやばいまじさむいしぬとか思ってないし」
「分かったからとりあえず何か着ろ。風邪引いて原稿上がらないとか洒落になんねーから」
「原稿原稿って……私より原稿のほうが大事なんかい」
「あー…………」
「真剣に迷うなよ!」
「嘘だっつの。どう考えてもお前の方が大事だろ」
「……ん、んん」
「何だよ」
「別に」
「上着着たか?」
「うん」
「ならいい」
「ねぇ、そっちからも見える?」
「今ベランダ出た……え、どこ?」
「うえ〜のほう。大分てっぺん」
「……あー、見えた見えた」
「どう?綺麗じゃない?不思議に赤くて」
「ただの三日月じゃん」
「台無しだよ!!」
「駄目だ寒い。もーいいや」
「うわー、何か私もいっぺんに冷めちゃった……部屋戻ろ」
「したら原稿やれよ」
「ねぇねぇ」
「ん?」
「ちゅーして」
「寝言は寝て言え」
「酷い!酷いよ!彼女に言う台詞じゃないよ!」
「いや、だって物理的に無理だろ」
「だからさっ、『ちゅー』って言って!」
「はぁ?」
「ねっねっ、お願いします言ってください!」
「…………………………ちゅー」
「…………」
「何だよ」
「…………まさか本当に言うとは」
「お前が言えって言ったんだろうが」
「まぁ、うん、そうなんだけど……」
「じゃあ、頑張れよ」
「あっ、待って!もっかい言ってください!」
「断る」
「そこをなんとかー!」
「次の月蝕の時に、気が向いたらな」





――――――――――――――

せっかくの月蝕ということで!

編集の彼氏さんはなんだかんだで甘いですね(笑)
彼女の口調が定まらないのは彼女が自由人だからです。



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