短編
□One Love Call
2ページ/3ページ
言い終わってから,喋りすぎたと気づいて――
凄まじい騒音が耳を貫いた。
「おい,どうした!」
ガサガサとおそらく携帯を探す音が聞こえて,あいつの返事が返ってきた。
『ご,ごめんなさいっ!携帯落としちゃって!……えっと,その……』
消えかけた台詞の最後は,辛うじて「嬉しくて」と聞き取れた。
『実は……この電話,迷惑なんじゃないかなって,最近悩んでたから……』
……迷惑?
「なわけねぇだろ」
とっさに口に出た言葉は,少し言い方がきつかったかも知れない。
『うん,わかってる!いつもかけ直してくれるし,優木さん,嫌ならちゃんとそう言ってくれるもん』
でもね。
『――不安になるときは,なっちゃうんだよ』
一息おいて,彼女は告白を続けた。
『ホントは,もう少し早くかけるつもりだったんだけど……余計なこと考えてたら,通話ボタンが中々押せなくて』
だからか。
いつもある着信がなかったのは。
――俺が,不安にさせてたのが原因だったなんて。
『だからすごい嬉しかった』
『待ってたって,優木さんが言ってくれて』
「…………携帯落とすくらい,か」
彼女は素直に『うん』と答えた。
しかし,
『……優木さんだって,携帯のそばで待ってるくらいなら,そっちからかけてくれてもよかったんじゃないの?』
すぐに拗ねたような口調でそんなことを言われてしまった。
やれやれ。
「なら,明日は俺からかけてやるよ」
なんだか今夜は出血大サービスだな。
心の中だけで呟くと,自然と頬が緩んだ。
『ほ』
「ほ?」
『ほんと,に?』
「ほんとに」
『まじですか?』
「まじですよ」
『信じてもいいですか?』
僅かに震えた質問に,
「信じろよ」
命令形で答えてしまったのは,照れ隠し――なわけない。
「でも,あんまり遅い時間だったらメールにするからな」
『うん,分かった。でも,多分ずっと起きてるよ』
彼女は控えめに言ったが,「多分」どころか「絶対」起きてるだろうな。
ワンコールで電話に出ただけで,いつもの倍は明るくなった声に耳を傾けながら。
俺からかけたら,どれだけ喜ぶんだろうか,なんて想像してみる。
これは,明日は何がなんでも電話しなくちゃなんねーな。
*次はあとがきです