短編

□One Love Call
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言い終わってから,喋りすぎたと気づいて――

凄まじい騒音が耳を貫いた。

「おい,どうした!」

ガサガサとおそらく携帯を探す音が聞こえて,あいつの返事が返ってきた。

『ご,ごめんなさいっ!携帯落としちゃって!……えっと,その……』

消えかけた台詞の最後は,辛うじて「嬉しくて」と聞き取れた。

『実は……この電話,迷惑なんじゃないかなって,最近悩んでたから……』

……迷惑?

「なわけねぇだろ」

とっさに口に出た言葉は,少し言い方がきつかったかも知れない。

『うん,わかってる!いつもかけ直してくれるし,優木さん,嫌ならちゃんとそう言ってくれるもん』

でもね。

『――不安になるときは,なっちゃうんだよ』

一息おいて,彼女は告白を続けた。

『ホントは,もう少し早くかけるつもりだったんだけど……余計なこと考えてたら,通話ボタンが中々押せなくて』

だからか。
いつもある着信がなかったのは。
――俺が,不安にさせてたのが原因だったなんて。



『だからすごい嬉しかった』


『待ってたって,優木さんが言ってくれて』


「…………携帯落とすくらい,か」
彼女は素直に『うん』と答えた。
しかし,

『……優木さんだって,携帯のそばで待ってるくらいなら,そっちからかけてくれてもよかったんじゃないの?』

すぐに拗ねたような口調でそんなことを言われてしまった。
やれやれ。


「なら,明日は俺からかけてやるよ」


なんだか今夜は出血大サービスだな。
心の中だけで呟くと,自然と頬が緩んだ。

『ほ』
「ほ?」
『ほんと,に?』
「ほんとに」
『まじですか?』
「まじですよ」

『信じてもいいですか?』

僅かに震えた質問に,

「信じろよ」

命令形で答えてしまったのは,照れ隠し――なわけない。

「でも,あんまり遅い時間だったらメールにするからな」
『うん,分かった。でも,多分ずっと起きてるよ』

彼女は控えめに言ったが,「多分」どころか「絶対」起きてるだろうな。


ワンコールで電話に出ただけで,いつもの倍は明るくなった声に耳を傾けながら。

俺からかけたら,どれだけ喜ぶんだろうか,なんて想像してみる。



これは,明日は何がなんでも電話しなくちゃなんねーな。





*次はあとがきです



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