短編
□in drink
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俺は玄関に出迎えに来てくれた少女を見て,「あぁ」と漏れたように呟いた。
「初めまして」
「は,初めまして」
頭を下げると,戸惑いながら彼女も返してくれた。
そして手に持っていた2つの鞄を床に置き,手早く自分の靴を脱ぐ。
「悪いけど,こいつの靴脱がしてやってくれる?」
「あ,はいっ」
彼女は足下にかがみ,少しくたびれた感じの革靴に手をかけて片方ずつ脱がはじめた。
その間,俺に支えられている優木にリアクションはなし。
閉じられぱなしの両眼。
そして,赤い顔。
その様子を見て,脱がせた靴を靴棚にしまって立ち上がった彼女は,恐る恐る尋ねてきた。
「……飲みすぎ,ですか?」
「そーゆーこと」と答えた声が呆れた調子になった。
「とりあえずこの馬鹿を寝室まで運ぶから,案内して」
「えっと,こちらです」
早くこのでかい荷物を下ろしたくてしょうがない。
そのせいで,少々ぶっきらぼうな言い方になってしまった。
……いや。
そのせいだけじゃないな。
どうも子供の相手は苦手だ,と俺――中村聡はため息を吐きながら,
「……重いっつの」
一度優木を抱え直し,先を歩く少女を追いかけた。
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