短編
□after this
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えらく気持ちのいいキスをする夢を見た。
「……いってぇ」
何でこんな頭が重いんだ?
えっと……あぁ、そうだ。
昨晩は気まぐれ上司にいきなり飲みに誘われて、有無を言わさず連行されたんだ。
真奈との約束があるって言うのに――
「!!」
そうだ、約束!
がばっと体を起こし、
「あいててててて……」
痛む頭を押さえた。
間抜けすぎる。
っていうか、何で俺ベッドに寝てんだ?
いつもあいつが泊まりにくるときは、間違いが起こらないようにソファで寝てんのに。
……あぁ、そんなこと知らない中村がこっちまで運んでくれたのか。
だったら真奈はどこで寝てんだ、とふと横を見ると、
「………………………」
安らかな寝顔で眠る彼女がいた。
「………………………」
いやいやいやいやいやいやいや。
まさかそんな……そんな……。
蘇る、夢の中でのキスの感触。
「いやいやいやいやいやいやいや」
なわけないって、うん。
俺が今までどれだけ我慢したと思ってんだよ。
その努力を酔った勢いでぶち壊すような、そんな男だと――
「…………ん、」
真奈はもぞもぞと動き出した。
そして眩しそうにまぶたを持ち上げる。
俺を見た。
「……おはよう、優木さん」
「お、……おはよう」
ゆっくり体を起こして伸びをする。
俺の目は、そんな彼女に釘付けだった。
乱れた着衣。
丸見えの脚。
そして何より、
パジャマから覗く白い首もとの、赤い点。
――終わった。
俺は頭を抱えてうなだれた。
「あっ、体調悪い?ちょっとまってて」
そう言って寝室を慌てて出て行った真奈はすぐ戻ってきた。
手に液キャベを持って。
「これ、中村さんから」
「あー……」
そうだ、昨晩はあいつのせいでこうなったんだ。
いや、うん、いつものことだから別に怒っちゃいないけどさ。
「さんきゅ」
受け取ろうと手を伸ばしたら、少し指先同士が触れ合った。
「――っ!」
たったそれだけのことなのに、真奈は過剰な反応をした。
それから、しまった、という顔をする。
……やっぱり、そうなんだな。
「……もうちょい寝てて良いぞ。朝飯は俺が作るから」
「えっ?」
「ちゃんと服着てから出てこい」
自分の格好を見て、慌てて首やら脚やらを隠す。
もう遅いってーの。
まぁ、スーツ着て寝てた俺も俺――
「って、俺はちゃんと服着てんじゃねーか」
ベルトまできっちりしてる。
だったら、してないってこと……だよな?
よし。
「いや、よしじゃねぇ」
2人分のスクランブルエッグを作りながら呟く。
真奈の反応からして、何かあったのは間違いない。
それにあの首の赤い点――
「キスマーク……だよなぁ」
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