短編
□after this
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結局昨晩何があったのか分からないまま時間は過ぎていった。
今は、前から約束していたとおりセンター試験で頑張ったご褒美に水族館に連れてってやった帰りの車の中。
助手席の真奈は、薄暗くなった外をぼーっと見ている。
今日は一日中こんな調子だった。
他事を考えている時間が長く、声をかけるだけで吃驚したように肩を跳ねさせる。
何度か訳を尋ねようとしたが、俺より全然賢い彼女は尋ねる前に俺の気を上手く逸らしてしまう。
水族館自体もそれなりは楽しんでいたみたいだし、話したくないのなら、と思ってもう訊くのは諦めた。
「……優木さん」
「ん?」
窓の外を見ながら彼女が言う。
「今日も泊まって良い?」
「……え?」
お願い、と続けたのは、今まで聞いたことがないくらい真剣な声だった。
「明日は日曜だから、まぁ、別に良いけど……なら、一回お前んち寄るからな」
「ありがとう」
「親御さんの許可もちゃんととれよ」
「うん」
長く息を吐く。
勉強はいいのか、と言うべきだったかな。
まぁ、いいか。
もう一泊分の荷物を持って、マンションの俺の部屋へ戻ってすぐ、真奈は「シャワー借りるね」と笑顔でバスルームに入っていった。
笑顔。
そう、笑顔だ。
「どんだけぎこちなくても、笑顔は笑顔だもんなぁ……」
何で笑ってんだろう。
言いたいことがあるなら言えばいいのに。
ともかく今の俺には、彼女が何を思ってるのか全く分からない。
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