短編
□clash?
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「おう」
「あぁ」
会社のビルを出てすぐ、たまたま中村と鉢合わせた。
「何だ、そっちも今帰りか」
「今日は早めに切り上げてきた」
本来なら他の同僚のようにもう1時間残業してったほうがいいんだろうが、生憎今日は予定が入っている。
社会人として、仕事よりプライベートを優先するのは全く気が引けないと言ったら嘘になるんだけどな。
――でも、今だけはこっちを優先させたい。
「また彼女が泊まりに来るのか?」
「……今晩は飯食うだけだ」
そうか、こいつはこの間真奈に会ったんだっけ。
そう頻繁に泊まりに来てる訳じゃねぇっての。
いつの間にか一緒に駐車場まで行くことになっていることには突っ込まない。
「面白くないな」
「何期待してんだ」
「女が夜自宅に来るっていうのに、何もせず返すなんてつまらないにも程があるだろ」
「…………」
見た目は優男でいろんな女にもてる中村だが、性格は決して優しくない。
どちらかといえば、えげつない方だ。
俺はため息を吐いた。
「あのな、あっちはまだ高校生なんだぞ」
「でも女だろ」
「手ぇ出したら犯罪だろうが」
それに、もう2月も半ばにさしかかる。
高校3年生にしてみたら、今が人生で一番大事な時期だ。
「ほんとはうちに来るのだって賛成してねーんだぞ」
よく親も許可してるよなぁと思う。
中村は「ふうん」とつまらなさそうに流し目でこちらを見た。
「大切にしてんだな」
なんと返していいのか分からなくて迷っているうちに、
「でも、それだと彼女の方も不安なんじゃないのか?」
やつは続けた。
「例えば――女として見られてないのかも、とかって思ってたりな」
何もかも見透かしたような笑み。
俺はそれを横目で見て、車のキーを左手でくるりと回した。
「それならもう解決した」
「…………、」
一瞬、中村が動揺したように思えた。
――まさか、
「お前が真奈に変なこと吹き込んだのか」
中村は頬を緩めた。
「だったらどうする?」
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