短編

□Fighting!
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真摯に見つめてくる野郎を視界から外して、手元の資料に目を落とす。

「無理だろうな」
「そんなこと言わないでくださいよ先生!」
「無理なもんは無理」
「やってみなきゃ分からな」
「あほか」

俺は愚か者の戯言を遮って、その資料(またの名を現実)をやつに突きつけてやった。
そこに書かれている野郎の偏差値は、どう捉えたってとても胸を張って人に教えられる数字じゃない。
俺がこいつの親だったら「どこで育て方を間違えたんだろう」と一晩後悔の渦に囚われていたところだ。

「こんな成績取ってるやつが、よくもまあ国公立に行きたいんですけど、なんて相談できたな。大した勇気だ。恐れ入ったわ」
「もう、やだなぁ。それほどでもないっすよ」
「そんなことねぇよ。一回死んでてめぇの身の程を思う存分あの世で思い知ってから生まれ変わって、そこから新たに義務教育から勉強し直せと俺に思わせる程度には、お前は勇者だわ」

野郎は「えへへへ」と締りのない顔で肩頬をかき、途中で「……ん」と動きが止まった。

「それって要するに、遠回しに呆れてますよね」
「気付くのが遅ぇよ、万年現代文オールレッド」
「ちょっと先生!!」

無意識に上着のポケットにつっこんで煙草を探していた左手で資料をめくる。
いやほんと、見れば見るほど救いようがねぇな。

「お前よく二年になれたな。ていうかまず、どうしてこの学校入れたんだ。そもそもどうやって今まできた」
「あの、先生。進級や入学に関しては慣れっこなんでいいんですけど、これまでの人生まで疑問に思われるとさすがの俺でもへこみます」

ん。ちょっと言い過ぎたか。
俺は何となく咳払いをして「何はともあれ」ともう一度資料を渡す。

「まだ二年の半ばだ。三年の今ごろにゃお前の気持ちも変わってるだろうよ」
「俺の成績が変わってるって事は考えてくれないんすね」
「これ以上悪くなったら卒業できんぞ」
「いいほうに考えてくださいよ!俺、どうしてもここの大学に行きたいんです!」
「大体なぁ」

あぁ、やっぱ煙草吸いてぇ。
なんでこんなやつを煙草より優先せにゃならんのか。
教師ってつれー。

「何でそこまでこの大学にこだわるんだよ」
「うっ……」
「文学部なんて、ここにこだわらなくてもその辺の私立でもあんだろーが」
「まぁ、そうなんすけど……」

呆れるほどあけすけなこいつしては、どもるなんて珍しい。

「……と、」
「あ?」
「……彼女と同じ大学、行きたいんです」
「…………あー」

なんつーか。
なんとも言えねぇっつーか。
それでもあえて感想を述べるとするなら、



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