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□甘い菓子
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【人見知りな彼女】



「えっと…」

さっきからお品書きと睨めっこをしっぱなしの彼女に,店員さんは気さくな笑顔で同じ言葉を繰り返した。

「ご注文は決まってはりますか?」
「……えっと,」

さっきから,これの繰り返し。
お笑い的に言うたらてんどんなんやけど,これは全然笑えないシチュエーションやな。
仕方なく,俺は手助けすることにした。

「どれにするん?」
「……こ,これ」

あくまで店員さんやなく,俺に向けて彼女は指を指して注文を示した。

「山菜の天ぷら盛り合わせ,一つ頼んます」
「かしこまりました。少々お待ちください」

あの店員さんも,よく待っててくれたよな…。
俺は,心の中で頭を下げた。
そして,真っ赤になってうつむいている彼女を見る。

「……ほんま,人見知りやんなぁ」

叱るんやなくて,むしろ微笑ましいと思っていることを表すために,笑って言ったつもりだが,

「ごめんなさい」

彼女は泣きそうな顔になってしまった。
その表情があんまり可愛いもんだから,慰めるように,頭をなでてみる。
ふわふわとした短い髪の感触が気持ちいい。

「ま,しゃーないけどな。性格なんやから」
「うう……」
「せっかく関西に来たんやし,関西人の人当たりの良さを学んでいきや」
「うん,頑張るっ!」

意気込んで強く頷く彼女。
さっきまであんなに沈んでたのになぁ。

しかし,そんな決心も,注文を運んできた店員さんが来ると淡く崩れてしまった。

「山菜の天ぷら盛り合わせをお持ちしました」
「……」
「どちらのご注文でしょうか?」

せやから,無言で俯くのはよくないって。
思わず苦笑してしまった。

「それ,彼女のです」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
「……ども」

店員さんが去ってから,堪えきれず,俺は笑った。

「固すぎやろ!いくらなんでも!」
「だってしょうがないじゃん!」
「せやけど,それじゃ愛想ないみたいに思われてしまうて!」
「うううう…!」

今度はまた違う店員さんが,俺のを運んできて,2人箸をとる。

「でも別に,無理に直そうと思わんでええんちゃう?」
「……さっきあんなに笑ってたくせに」
「すまんすまん」
「また笑ってるし!」
「だって可愛いんやもん」

お吸い物を飲む彼女の手が止まった。
そして,箸で持ち上げたうどんを冷ましながら「それに,」と続けた。
彼女は,湯気の向こうで赤くなったのが分かった。



「俺,君に頼られるの好きやし」





―――――――――――――

方言に違和感があったらすみません。
高橋は関西行ったことないです。
大阪の子と喋ったことはあるんですけど…。

人見知りはしょうがないよね!



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