少数派恋愛論

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訝しげに眉をひそめた。

「そんなこと訊いてどうすんの?」

キーボードを叩く手を止めてから、僕は答える。

「別にどうもしないけど」

香月はどうでも良さそうに「あぁそう」相槌を打って、「ゆずー、おいしー?」と腕の中で一心にミルクを飲んでいる柚希に満面の笑みを向けた。
こうやって子育てしている香月を見る度に、やっぱり母親なんだな、と改めて思わざるを得ない。

「私が初めて同性(オンナノコ)を好きになったとき……ねぇ」

うーん、と小さく唸る。
同時に首も傾げたので、長いブラウンの髪がさらさらと流れたのが見えて、

「確か中学上がったばっかりの頃だったかなー。同じクラスの子に一目惚れしたのよね」

結構予想外な答えに内心驚いた。
だって、中学ってことは十二歳だろ?

「早くね?」
「なーに言ってんの。同性愛に目覚めるのに遅いも早いもないわよ」

中には物心ついたときからそういう人だっているんだから、と言われて納得。
使い方は違うけど、恋愛に年齢は関係ないってことか。
――ていうか、

「姉さんが一目惚れなんてするほどピュアな心の持ち主だったとはとても思えないんだけど」

「失礼ね!私にだってそういう時期ぐらいあったわよ!」

ねぇよ。
紀元前まで遡ってもねぇよ。

「でもまぁ、どうせあれだろ?一目惚れとか言って、好みな胸の形だったとかそんな感じだろ?」
「そうよ。すごく大きかったの」
「あんた最低だよ」

津村香月という一児の母は、最低な話を出した弟なんかより遥かに底辺だった。
そのことに気づいてないあたりが特に。

「で、その恋はどうなったわけ?」
「はい、ごちそーさまー。お腹いっぱいだねー」

空になったほ乳瓶をテーブルに置いて、ミルクの付いた柚希の口を拭く。
右に抱きかかえて小さな背中をさすってやりながら、「どうもなってないわよ」とさらりと言う。

そりゃそうだよなぁ。
中学生じゃ、同性カップルなんてなかなか成立しな――

「キス以上はやってないし」
「どうにもなってんじゃねぇか」
「けぷ」

反論は可愛らしいげっぷと同じタイミングだった。

「え?何、告ったの?」
「いいえ」
「まさか襲ったのか?」
「私は発情期の雄犬か何かか」

多分違うけど、決して遠くはないと思う。
そこまで口に出したらパソコンが借りられなくなるのが目に見えてるので「ごめんごめん」と軽く謝っておく。



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