捧げ物

□Birthday Present
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▽結城誕生日企画 8/4



「持ちます」
「え?」

彼女の左手の買い物袋をやや強引に奪うと、その重みのせいで傾いていた体が真っ直ぐになった。
別にいいのに、それくらい持てるよ、と彼女は言うけど、私が持ちたいんです、と聞く耳を持たないふり。

「けち」

いじけて尖った唇に、甘えて欲しいんです、と言えない私だった。

「お好み焼きパーティー楽しみだね」
「ですね」
「関西出身も広島出身もいるし、いろんな種類のが食べられるね」
「喧嘩とかにならなきゃいいんですけど」
「でも、それはそれで面白そう」

身軽になった身体でわざとカツカツ音を鳴らして彼女は歩く。
夏らしい花柄のワンピースの裾がふわりと浮くのか綺麗で、自然に視線がいってしまう。

「ソースとかでその服、汚さないでくださいよ」

高かったんだから。
言ってみたけど、正直なところ値段は気にしてなかった。

「心配ご無用、そんなことしませんよーだ」
「どうだか」

年下の生意気に反論しようとしたらしい口の形が、しかし「そういえば」と違う風に動いた。

「どう?」
「……どうっ、て?」
「もー!駄目だなぁ!」

だってそんな、いきなりスカートつまんで目の前でくるりと回られても。

「何が駄目なんですか?」
「乙女心が分かってないよ!」

いや、これでも花の女子高生なんですけど。
乙女なんですけど。

「誕生日プレゼントって言ってくれたこのワンピース」
「はい」
「誕生日の今日、初めて着たんだよ」
「…………あぁ、はい」

欲しいのは――感想、か。

「とても似合ってますよ」

彼女は満足げに、ふふふっ、と笑ってくれた。

「可愛い?」
「はい、とても」

お世辞じゃなく、私は心から答えた。
すると彼女はいきなり、「あっ」と声を上げた。

「コンビニだ!ガリガリ君食べよ!」
「え、」

もう豚肉買っちゃったし、こんな暑いんだから早く冷蔵庫に入れなきゃなんだけど。
ていうかあなたのさっき持ってた袋のキャベツが重いんですけど。
私の心の声なんて露知らず、彼女は駆け足で店まで行ってしまった。

「早く早くー!」

ほんとに、もう、仕方のない人だ。

照りつける太陽の中、ガリガリ君(梨味)を食べながら歩く。
そんな夏。
好きな人は、二十歳になった。





よかったら拍手をどうぞ...



*次はあとがきです



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