捧げ物

□What do you know?
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そんなこと訊かれても。
なんて言葉を濁して逃げようとするぼくを、きみは真っ直ぐに見つめてくる。
すっかり見慣れたはずのその茶色が、どうしてか今は少し怖い。

だって見たことないくらい澄んでるんだ。

まるで、ぼくの眼球の奥にある『1450グラム』全てを見透かそうとしているみたいで。

真剣さに押される。
真摯さに息を飲む。

純粋で、純正なきみの質問を、鈍ってきた頭で反復した。

きみはあの人たちの何を知ってるの?

言葉だけ見るとまるで責められているようだけど、彼女の発音はそんな風ではなかった。
ただ単に、ぼくがあの人たちについて知っていることがあるかを尋ねていた。

さて、なんと答えたものか。
普段怠けさせている部分を駆使して、ぼくはやっと口を開いた。
きみが三度、ぼくは五度瞬いた頃だった。

知らないことばかりだよ。

彼女の目が僅かに陰った。
構わず続ける。

あの日にこちらを一瞥した蛇がこれからどこへ行くかも、
いつかの夜に羽ばたいた烏がどの青を好きかだって、
ぼくは知らない。
ほとんど、何も知らない。

もはや半分独り言みたいに、でもきっと、と続ける。

知らなくても、善いんだと思う。

そんな気がする、と言うと、どうして?と尋ねられる。

知っておかなくちゃいけないことは、十分知ってるからさ。

ぼくは肩をすくめて、小さく笑った。

烏も蛇も、触れれば暖かいことさえ知っていれば、ぼくはそれで善いんだよ。

しばらくしてから、彼女が呟く。

善いのかな。

ぼくは応える。

善いんだよ。

静かにクッキーを指差した。

それだって、どこの誰が何でどうやって作ったかなんて、知らないだろう?
うん。
でも食べるよね。
うん。
それって、美味しいってことだけは知ってるから、食べるんだろう?

しばらくの間ののち、ああ、そっか、そうだね、と彼女はふにゃりと笑った。
どうやら納得してくれたらしい。

良かった、とこっそり思う。
もうすっかり、もとのきみだ。
そんな安堵は露ほども表さずに立ち上がり、

「紅茶かミルク、どっちがいい?」
「ココア!」
「はいはい」

ぼくらは3時のおやつにすることにした。





*次はあとがきです



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