章用 その他

□あなたも私もポッキー!
1ページ/2ページ

そろそろチラリズムが嬉しい季節になってきましたね、とはとある紳士さんの言葉。
今日も御伽銀行は寒さに負けず学生を相互扶助しています。
「なんて美しいんだ…。貴女のような美少女をまだ知らなかったなんて…。この浦島太郎、男失格です。レディ、失礼ですがお名前は?」
いつものようにキザな笑顔で女生徒に迫る浦島さん。少女は可愛らしく小首をかしげてこう言った。
「…桐木リスト?」
小さな唇から紡がれた言葉は確かに聞き慣れたもの。
まばゆい金髪をべりっと剥がし現れたのは明らかな短髪。
「頭取!?」
「いや〜浦島君でも気づかないもんなんだね?」
浦島さんは現れた人間を見てまず目を見開き、それからがっくりと肩を落とした。
そんな落ち込み感漂う背中に何者かが走り込む。
「太郎様ー!」
「おっ乙姫!まだ浮気はしてない!」
飛び付いた人影は浦島さんの彼女乙姫さん。清楚な美少女ですがいろいろとすごいお嬢さんです。
乙姫さんは後ろから抱きついたまま浦島さんの口に何かを挿し入れた。
「あーん」
「あーん」
素直に口を開く浦島さん。
浦島さんがぱくりとくわえたのは細長いお菓子。ポッキーである。
乙姫さんはにっこり微笑むと突き出たポッキーの片端をくわえた。
「さあ太郎様。召し上がってくださいませ」
浦島さんは心得た!というように進み始めた。短くなっていくポッキーに近づく唇。
乙姫さんのくわえ方が何故か無駄に色っぽい。
御伽銀行メンバーの存在を完璧に無視して二人はポッキーを食べきった。当然くっつく唇。普通は初々しくすぐ離すものだろうに二人は止まらない。浦島さんが乙姫さんを抱きすくめると深い口づけに入った。ここから先は大人の世界。
おおかみさんなんて決して目を離さないくせに顔真っ赤です。りんごさんはにやにや、あなたそれ荒神洋燈と同じ顔ですよ「潰されたいんですの?」
失礼しました。でも神の目線に突っ込むのやめてください。
はぁ…はぁ…と息も荒く興奮したらしい乙姫さんはありえないことを叫びだした。
「ああん太郎様!私の下の口に太郎様のポッキーを食べさせてくださいませ!」
乙姫さんあなた可愛いのに言ってること酷すぎますよ。
問題すぎる下ネタが聞こえなかったふりをし、ついでに連れ去られる浦島さんも見ないふりをする御伽銀行の面々。
そうして御伽銀行の風紀を著しく乱す二人が消え、残るは今日の当番である一年生組と三年生組。
「私としたことが大事なことを忘れてましたの!」
突然りんごさんが大きな声を出した。
「大事なこと?」
とおおかみさん。
「今日は11月11日。つまり、ポッキーの日ですの!」
無い胸を張るりんごさん…すいません、まだ成長途中なだけですからそんな目で見ないでください。
「あら偶然。こんなところからポッキーが…ですの」
童話に出てくるような可愛いバスケットからポッキーを取り出し、りんごさんはニヤリ。
「というわけで涼子ちゃん。森野くんとポッキーゲームですの!」
「なんでだよ!」
「むむむ、ムリっす!」
ツンデレとヘタレからブーイングが巻き起こるがロリはそんなの気にしない。
「じゃあ涼子ちゃん。私としますの?私はそれでもぜーんぜん構わないんですの」
「む…」
黙るおおかみさん。
「……。ならりんごとする」
「ええええ!」
「涼子ちゃん!読者は百合なんて望んでないんですのよ!?」
自分から言い出したのに困り出すりんごさんと密かに残念がる亮士くん。
「だ、だってこんなヤツとポッキーゲームなんて無理だ!絶対無理だ!」
「こんなヤツ…って酷いっす…」
「お前も反抗しろよ!恥ずかしすぎるだろ!」
顔の真っ赤なおおかみさんは拳を振り回し、不幸なことに手加減のないそれが亮士くんの頭にめり込んだ。
相当痛いはずなのに亮士くんは悲鳴一つ漏らさず堪え、いい笑顔を見せた。
「それでも俺は…涼子とポッキーゲームがしたいんだ」
亮士くん漢モードの使い所間違ってます。それでも後悔しない勢いで亮士くんは笑うと、そのまま床に倒れた。
「亮士!亮士ーっ!!」
全く意図せずの攻撃だったこともあって非常に焦るおおかみさん。慌てすぎて涙目になってます。これはレアです。
「りょ、亮士!目え覚ませ!」
なかなか復活しない亮士くん。おおかみさんあれは本気でしたからね。ダメージも大きいはずです。
「涼子ちゃん。ポッキーゲームするって言ったら治るかもしれませんの」
慌てるおおかみさんに囁く真っ黒なりんごさん。
「そうか!亮士!ポッキーゲームしてやるから、起きろ!」
言われた通りに叫んでしまうおおかみさん。
「ポッキーゲーム…?」
おいおい嘘だろ。愛は世界を救うってホントかよ。ポッキーが人命救助してるぞ。
完全に気絶していたはずの亮士くんがかすかに震え、ぱちくりと目を開けた。
「ポッキーゲーム…?」
「亮士!」
よかった…と小さく声を漏らすおおかみさんの口にりんごさんが容赦なくポッキーを突っ込む。
「約束ですの★」
「んーっ!」
りんごさんに嵌められたおおかみさんはポッキーを抜くこともできず涙目。
「さあ森野くん、今ですの!」
「は、はいっす!」
そこで食い付く亮士くんも男としては失格だが、それほどまでにこの禁断の遊戯は心を惑わすのだ。
「りょうこはん、いくっすよ…」
「亮士の馬鹿…」
おおかみさんがいくらツンデレだからといってそこは顔を赤くしながらも観念したようです。
一口め、亮士くんが食べ進む。
おおかみさんは一向に口を動かず気配がない。たまらなくなった亮士くんは柔らかくおおかみさんを促す。
「りょうこはん、りょうこはんもはべてくだはいっす…」
おおかみさんは亮士くんを睨み付けながらも一口食べる。
唇が近づいていくのをにやにや見守るりんごさん。
もたつきながらも確実にポッキーは短くなっていく。
二人がキスをするまで残りはわずか。
どうしようもなくなったおおかみさんは今度こそ亮士くんを殺しそうな視線でにらんでいる。でも涙目+赤面じゃああまり効果は望めません。
一方心拍数が異常な程上がっているヘタレ亮士くん。
諦めたようにおおかみさんが目を閉じたからもうたまりません。
え…これ食べちゃっていいんすか、涼子さんの唇もらっちゃっていいんすか。それにしても涼子さんほんといい匂い…。
いつまで立っても動く気配のない亮士くんにだんだんおおかみさんがイライラしだす。
男ならさっさとしやがれ!恥ずかしいんだよ!
チラ、と目を開けた先にはまるでエロオヤジのような顔をした亮士くん。
気がついたらおおかみさんの拳が亮士くんの腹にめりこんでいた。
吹っ飛ぶ亮士くん。本日二度目です。
「馬鹿野郎!」
それだけ叫ぶと真っ赤な顔のおおかみさんは御伽銀行を飛び出した。
悶絶する亮士くんは追いかけることもできず必死に手を伸ばす。
「涼子…さ…」
「当然ですの」
呆れ顔のりんごさん。
おおかみさんの姿が見えなくなって倒れた亮士くんに聞こえないように、りんごさんは呟いた。
「やっぱラブコメ的にはそんなに上手くいかないですの」
唇を尖らせるも、すぐに嬉しそうに一人笑う。
「王子様とのキスは、ロマンティックじゃないといけませんの」
あれ、腐れロリのはずのりんごさんが外道じゃない「何か言いましたの?」
なんでもないです。
後輩たちのお祭り騒ぎを微笑ましいんだか何考えてるんだか分からない目で見ている人が一人。そう、頭取さんです。
りんごさんの独り言を聞いた頭取さんは自分の椅子を回しながら、隣の少女に声をかけた。
「ねえ、アーリス君?」
「嫌です」
「即答っ?」
「なんで私が頭取とポッキーゲームをしなくちゃいけないんですか。仕事があるでしょう」
そっぽを向いたアリスさんに、まだポッキーゲームとは言ってないのになあ、と頭取さん。でも言いたかったことに間違いはないので反論もしない。
「だってさ?僕らだけ独り者は寂しいじゃない?」
「赤井さんだって自分はやってませんよ」
「彼女は楽しんでるからいいんだよ?ってことでアリス君?」
突然頭取さんの顔が近付いてくる。思わず目をつぶるアリスさん。
アリスさんの頬に、彼の唇が当たった。ほんの一瞬でも頬にキスをされてアリスさんの顔が紅潮した。
「と、うど…」
怒鳴りかけた口にポッキーが入る。不可抗力でうむ、と口をつぐまされたアリスさん。
「ポッキーゲーム、やろうよ?」
アリスさんは可哀想なことにその目から逃れられなかった。
問答無用で突き出たポッキーに食い付く頭取さん。
ゆっくりと、焦らすようにポッキーを食べていく。
あまりの恥ずかしさにアリスさんはぷるぷると震えています。
ポッキーをくわえた小さな唇が震えて彼の名を呼んだ。
「りっくん…」
熱っぽい囁きを聞いたその瞬間、頭取さんの目が開かれた。
わずかなポッキーを全て口に含むと、アリスさんの腰を抱き寄せその唇にキスをした。
突然抱き締められたアリスさんは何が何だかわからず目に涙を溜めています。
「んーっ!んーっ!?」
ぷはっと長いキスの末唇を離した頭取さんは申し訳なさそうに眉を寄せた。
「ごめんね?」
「ばっ…」
やっと唇を解放されたアリスさんは息を整えて叫んだ。
「ばかじゃないんですか頭取!なにやってるんです!しかも後輩の前で!」
頭取さんが目を向けると、いつの間にか揃っているたくさんの後輩がさっと目を逸らした。
「…」
沈黙する頭取さん。しかしその手はまだアリスさんの腰に回されている。
「ポッキーゲームが、したかっただけなんだよ?」
言い訳するように呟いた頭取さんにアリスさんは容赦なくチョップを繰り出し
「りっくんのばかああああ!」
涙目で走り去ってしまった。
そんな珍しい彼女の姿、しかし先程のおおかみさんとかぶる、に誰からともなく非難の声が上がる。
「あーあ、泣かせましたの」
「泣かせたっすね」
「泣かせたな」
「男の風上にも置けないな」
「全くですわ。太郎様はそんなことしませんよね?」
「…どうしたらアリス君、機嫌直してくれるかな?」
「追いかけてキスの一つでもすれば乙女はイチコロですわよ?」
「それはちょっと…?」
「できないんですの!?今のはしたのに!?」
「…」
「ヘタレ!」



後で頭取さんは、ポッキー五箱で許してもらえたとかもらえなかったとか。
めでたしめでたし。





――――――
リスアリ早く結婚すればいいと思う。御伽銀行の男子は皆ヘタレです。



→「GL」で「18禁」です!注意!
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ