章用 その他

□二つの指輪
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※老後で同棲中
※バニーちゃんは敬語崩れめ





「おはようございます…」
「お、やっと起きたか。バニーちゃん」
目を擦りながらキッチンに顔を出したバーナビーは、朝から元気な虎徹を呆れたように見つめた。
「早いな、おじいさん」
「おじいさんってなんだこら!まだおじいさんって歳じゃねえぞ」
もう60も越え孫もいるというのに、まだ若いつもりでいる虎徹のいがみを無視し彼の握るフライパンをのぞく。
「何作ってたの?」
「ん?俺のスペシャル・ベーコンエッグ。フレンチトーストもあるぞぉ」
「へぇ。美味しそう」
「だろ?」
胸を張った虎徹の陰にはかぐわしい匂いを立てる朝食の品々。
「あと5分でできるから、ちょっと待ってな」
「ん…」
大人しくテーブルに座り、キッチンで立ち回る愛しい人の姿を眺める。昔はマヨネーズがけの白米だの、いかがわしい料理しか作らなかった彼が自分の好きなベーコンエッグとフレンチトーストを作れるようになった。それでもう男の幸せを十分すぎるほどもらったと思うのだ。
「へいお待ち!虎徹スペシャル・ベーコンエッグだ」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
半熟めの黄身。贅沢に使われたベーコン。ひたひたのフレンチトースト。んーうめえと自画自賛する。低血圧気味のバーナビーはぼうっとした顔でトーストをかじっている。
「虎徹さんそれ取って」
「ほい。バニーそれ取って」
「はい」
バーナビーの手渡したマヨネーズを虎徹はおもむろにかけ始める。
ベーコンエッグにマヨネーズを乗っける癖はいつまで経っても変わらない。カロリーの塊を大量摂取し続けてる割には肉の落ちた体。昔より虎徹は小さくなった。
「バニーちゃんほっぺについてんぞ」
「えっ?」
バーナビーが見当違いな方向に手を当てている間に虎徹が手を伸ばしてトーストの欠片を摘まむ。欠片がぺろっと飲み込まれる様子を相方は呆れて見ている。
「虎徹さん。その癖直した方がいいですよ」
「は?どの癖?」
「人の頬から取って食べるの」
「もったいねえじゃねえか。潔癖症だなバニーは」
「違います」
彼がいつになく真剣な顔をしたので虎徹もつられて居ずまいを正す。
「60代なのにそんなに可愛くてどうするんだって言ってるんだ」
「…本気で言ってんの?」
「ただでさえ老眼鏡かけた虎徹さん可愛いのに!襲われたらどうするんだもう若くないんですよ!」
「自分の身ぐらい守れらぁ!ってかお前俺の老眼鏡そんな目で見てたのかよ。気にしてんのに!」
「老眼虎徹さん可愛いハァハァ」
「前からお前、思ってたけどおっさん好きだよな。だから俺にも手ェ出そうなんて思ったんだろ」
「違います。僕は虎徹萌えだ!」
「なんだって?」
「虎徹萌え!あなたが良いんです。あなたじゃなきゃ駄目なんだ」
「お前こそそういうのやめろよ50にもなって、殺し文句」
「虎徹文句?」
「殺し文句!」
「…っ。そんなこと言う虎徹さんが可愛すぎてブロークン理性」
「ったく!朝からしょうもないことをベラベラと!わかったよ。今日の夜付き合うよ」
「虎徹さん、腰大丈夫?」
「なんで急に素に戻るの!」



それからおじいさんは洗濯物を干しに、おじいさんは部屋を掃除しています。とある物語が始まりそうな一コマ。でも敵を退治しても老夫婦の生活は変わらなかっただろう。今ここにあるのは、めでたしめでたしのその後。
二人分の衣を天の下に晒し終えたバーナビーはシャツで汗を拭う。
「虎徹さーん、手伝いましょうかー?」
鼻歌を奏でる彼はバーナビーの声が耳に入っていないらしい。馬鹿でかい掃除機の唸りが邪魔をする。
「おじさん!手 伝 お う か!」
バーナビーがもう一度叫んだ途端呼ばれた方が掃除機のスイッチを切った。
「ふーっ。掃除終わりだ!キレイになった!」
「…」
「あれ?バニーちゃんもう終わったの?」
「もういいです」
「あらそう」
すべき家庭の雑事を終えて虎徹は揚々とソファに座り込んだ。放られていたリモコンに手を伸ばして楽しそうに大画面に向かう。
「何か見たいものでもあるんですか?」
「ん?あるある」
「なんかやってましたっけ」
返事を待たずとも画面に映る人影で中身はすぐに悟れた。
「『ヒーローズ レジェンド』」
かつて自分が出演したドラマの名を虎徹が呟くと同時にテレビの中の少年がしゃべりだした。
【パパ!僕、大きくなったらパパみたいなヒーローになるんだ!】
【お前ならなれるさ。僕の坊や】
無邪気に語るブロンドの小さな男の子はどこか幼い日のバーナビーを連想させ、それに応える父親役のバーナビーの視線がまた憧憬の中の誰かによく似ていた。
父親の慈愛に満ちた手のひら。
幼い自分が夢に見た家族の風景。限りなく愛と幸福に包まれた風景を二人、無言で見ていた。
「お前。これ演技してないだろ」
やがて虎徹がポツリと言った。少年に向ける父親然とした暖かさはバーナビーのあるかもしれなかった未来で、叶えたかった夢だ。
バーナビーは老いた自分を見て、微笑んで言った。
「そうかもしれません」
カリーナ・ライルの歌うエンディングが流れ出し、とある父子のシーンが終わってゆく。まるで子守唄のような優しいメロディがやけにバーナビーの心を打った。
トサリと隣の肩に頭を乗せても怒られない。歌が途切れてコマーシャルがテレビを彩っても二人はしばらくそのままだった。
残りの寿命を少しだけすり減らして二人でいられる贅沢を味わう。
二人の世界を外からガヤガヤ取り囲むのは昔とちっとも変わらない、ともすれば永遠に生きていそうなほど若々しい元・ファイアーエンブレムのトーク番組のコマーシャル。次いで流れたのはKOHの名を受け継いだ折紙サイクロンのコマーシャル。堂に入った見切れ具合はいまや一つの伝説だ。
「バニー、カリーナネイサン折紙。皆集合かよ」
「あなたは?」
「俺はここにいんじゃねえか」
お前の隣に、と隣にいる人は言った。
バーナビーは陽光を受けた虎徹の薄い頬を見て、彼の口をふさいだ。まるで結ばれたてのカップルのようにたまらなく愛しさが込み上げてきたのだ。
突然のキスにぽかんとした虎徹は唇を解放してやるとようやく反応を返した。つきあい初めの頃に見せた躊躇いや恥じらいは今や影もなく、リアクションは明快な大笑いという始末だった。バーナビーがさすがに顔をしかめだした頃に、目尻にかすかな涙を見せて笑い声は止んだ。
気が抜けたように両手をソファーの背もたれに広げて、呟いた。
「しーあわせだなぁ…」
何もない日にあるべき幸せ。唱えるべき異論もバーナビーは持っていなかったので、同じように体をソファーに預けた。
虎徹の薬指に光るのは亡き妻との思い出と、バーナビーとの幸せな未来の約束。鼓動に合わせて煌めく二つの指輪を愛しそうに眺めて老人は愛の在処を知った。






――――――
設定(俺得)
虎徹…レジェンドとしてたまに仕事をするも実質ヒーローは引退。楓ちゃんは結婚し子供もいる。
バーナビー…虎徹より後にヒーロー引退。たまにドラマの出演依頼が来る。
アントニオさんは牛角の店長してるよね。
老後ものが大好きなんだけどもっとみんな書いてよ!

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