章用 その他

□少女は苺を孕む
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女の子の経血は苺ジャムに似ている。どろどろの赤いジャムをパンに乗せて口に運ぶまでに、千里はそんなことを思い出した。
「お腹痛ぇー」
少女は煤けたフローリングにうずくまる。
「情けないわね、紗香」
「うっさい…」
下腹部の痛みに苦しむ紗香にいつものような威勢はないようだ。
語彙に足下の下僕を労る言葉などない。
手製のジャムは苺の形がなんとなく残っている。種を噛むプチプチとした食感さえ美味しい。ロウソクを噛むような固形食料に慣れた口にはこの上ない快感だった。
自然の甘さを楽しみながら御主人様は紗香を眺めている。欠けた天窓がキラキラと陽光を採り入れる図書館は彼女たちに普段の殺伐さを忘れさせ、ありきたりの女子高生をつくっていた。
「可哀想に」
紗香が千里を見上げたが逆光で彼女の顔はよく映らない。傍若無人な御主人様が自分の痛みに同情しないことだけは確か。
千里はこの苺が食べられないなんてと言ったのだ。
「天然の苺なんてもう手に入らないのよ。私の叔父が北で農家をやってるから、特別に分けてもらったの。つまりプライスレス。ちょっとやそっとのお金じゃ買えない」
「…」
死んでいる紗香に自慢を並べ立て終わり、千里はひるげを片付けることにした。ルビーを溶かしたような美しい半固体はガラスの中にまだ残っている。大事にそれをしまってから千里は唇を舐めた。口についたジャムの甘みを飲み込む。そして足下の女の子を見つめた。
紗香は妙な視線を感じたが気のせいだと思おうとした。しかし千里の眼力は伊達ではない。美人だから。
ろくなこと考えてなさそうだと高校生戦士の経験則が教えてくれる。実際その通りだった。
「ねえ紗香、ちょっと黙って目を閉じて」
「何…」
逆らうのもめんどくさくて重力に沿って瞼を下ろすと体も引っくり返った。三半規管は正常。
思わずバッと目を開けると青い空が目に入った。割れた天窓と舞い降りる埃、それを隠すように視界に入り込んだ彼女。ほらろくなこと考えてない。
「は!?」
「ちょっと見ようと思って」
「何を!?」
チシャ猫のように笑った千里は紗香の気付かないうちスカートに手を伸ばし、暗闇に潜り込んだ。
「ちょ…や、やめて!」
「なんで?」
「なんでじゃねえよ!なに昼間から盛ってんだよ!誰か見てるかもしんないだろ!」
「誰がいるって言うの?」
事実、開店休業状態の市民図書館に整った書物などほぼ残っておらず、黄ばんだ『火の鳥』や頁のない『阿Q正伝』が寂しそうに埃と同化しているだけ。荒れた時世に唯一警備員と言える老婆は薙刀を壁に立て掛けたまま舟を漕いでいる。
頼りになんねえ!理解してしまった紗香はオーマイゴッドと天を仰ぐ。力の抜けた体を捕食者は組み敷いた。
太ももに他者の手が触れたのを感じて体は強張った。小兎は抵抗を諦めない。追い詰められた兎のようにとはいかず後ろ足は宙を蹴る。
千里はざんこくに紗香のスカートを捲り上げた。黒のショーツがあらわになるのを見て当人は赤面する。
「馬鹿!あたし生理中だぞ…」
「元気そうじゃない」
「ばっちいだろ!」
「紗香に汚いところなんてないわ」
恥ずかしげもなく言った千里に、紗香は不覚にも言葉を詰まらせた。そんなところにときめく乙女心なんてどうかしてる!と思ったまま犯される。
「やめてってば!」
とうとう下着も脱がされ始めて、腹の痛みに耐えつつも全力でじたばたしたが思ったより強い力で千里は体を押さえつける。この細腕のどこにそんな力があるのか。顔を真っ赤にした紗香はまるでか弱い女の子のようだった。
「千里ぃ…」
ひよこ色の布ナプキンを引き剥がすと、グロテスクな卵子が赤黒い屍となって溜まっていた。まだだくだくと排出し続けるそこは空気に曝されて痛々しい。
「見ないでよ…」
泣きそうな声を出す紗香があまりにも可愛かったから、犯しかけの秘境も放って唇をふさいだ。涙を浮かべた瞳が閉じられる。
紗香は千里の口の甘さにびっくりした。苺ジャムを舐めたばかりの舌が美味しくて、思わず口内に食らいつく。しゃぶりついて味わって。原始的に人体の合体。
犯される少女が積極的なので千里は少したじろいだ。
キスの快感に蕩けつつ開いた股間に手を伸ばす。ドロ、と絡みつく血の感触。紗香が赤い顔で唇を解放した。唾液の糸が紗香の制服に落ちて染みをつくった。
「千里っ」
ぐじゅぐじゅと溜まった卵を混ぜて、その指で紗香の股を撫でるととうとう彼女は泣き出した。嫌がる体を押さえつけて無理矢理穴に侵入する。
「やめてよ千里…痛いよ」
がんがん痛む子宮の入り口を千里の指が掻き回す。そこにもう感覚はなく気持ち悪いだけだった。血が汚いとかそんなことも忘れて熱っぽい千里の表情に怯える。
千里は姉を好きなのに時々あたしを抱く。可愛いも好きも言うけど姉のことを愛してると言うからあたしと奴は恋人じゃない。ただ抱き合って眠るだけ。あたしは千里が、好きなのに。
「マグロなんてつまんないわ」
「だからそこ痛いんだって…」
「そんなに生理痛って痛いの?」
「軽い奴にはわかんねえよ…」
「ふうん」
紗香の股からぽろんと赤い塊が排出されて、恥ずかしさに泣き声が大きくなった。千里はまじまじとそれを眺めて指でつまんで、食べた。
「ひっ!?」
一瞬顔をしかめて喉が動いた。蠢く真っ赤な唇。
食べられた。あたしの卵子が、千里に。
「まずいわ」
「へっへっ変態ーーー!信じられない!馬鹿だろ!?」
苺色の舌が赤い指を舐めた。きょとんとした顔。憎らしくて愛しくて、頭がグロテスクな妄想で一杯になった。
苺と卵子が混ざって千里のなかに孕まれる。それでも彼女はあたしの子どもを産まないのだ。
ねえ、愛し合えたらいいのに。
不意に泣きそうになって、千里をキッと睨みつける。
子どものように座る千里に抱きついて押し倒す。紗香の涙が千里の頬に触れて、唇の苺ジャムを共有。
苺の甘さは心をとろかすように。



赤い宝石をドロドロに煮込めば、次第にあぶくが浮いてくる。気泡は赤い果実の悲鳴のようだ、だとすると鍋をかき混ぜる私は魔女?魔女と呼ばれる人物は悪い奴しか思い浮かばないけど、絵本の魔女だと思えば素敵かもしれない。
赤い実は女の子に似ている。ツヤツヤして触れば弾けそうなくらい瑞々しい肌。柔らかく弾力がある体はとても甘い。ふくらんで終わりはキュッと締まる形が、頬をふくらませた少女を思い出させる。
苺の香りが鼻をくすぐり食欲を呼ぶ。まだお預け。とろとろのジャムにした苺は、彼女と一緒に食べるんだ。パンにたっぷり塗って口いっぱいに頬張るのが彼女らしい。口元が緩むのは苺があまりにも可愛らしいせい。
私の大好きな苺は、大好きなあの少女によく似ていた。








――――――
書いてる最中に自分が生理になったような気がして何度もトイレに行った。
初回で図書館出てますよね、すみません。別の、金目の本は全部持ってかれた感じの図書館ということにしてください…。
時系列には後パート→前パート。

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