章用 その他A

□FALLIN ANGEL
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親愛なる兄が聞く、もしジョン・ワトソンが女性だったら結婚したか?我が兄の癖になんという愚問だろう。女性だったらそもそも愛すことさえなかった。
化粧品の匂いもしない、ヒールの足音で僕を苛立たせない、賞賛の言葉が欲しいタイミングをわかってくれる、そして同性。彼は愛さざるを得ない完璧なパートナーだった。

バイオリンの麗しい調べ。静な終章を奏でてシャーロックの短いコンサートが終わる。ジョンは感心して拍手をくれた。バイオリンを机に置いて推理を語るように今日の命題を差し出した。
「なぁジョン。幸福や悲しみや全ての人間的な営みから無縁な人間がいると信じられるか?」
ジョンはちょっと戸惑った。
「それが君だって言いたいのかい?シャーロック」
肯定も否定も示さない。
「君にだって心はあるだろ。僕は君の思いやりも傲慢も知ってるぞ」
「確かに僕も心を持っているのかもしれない。でも」
「でも?でもなんだ?」
「なんでもない!」
ソファにどかりと座る。
僕の恋心を知っているのか?
僕は君を好きになってしまった。決して結ばれることのない男に恋をして人間らしい幸せから遠ざかった。実らない恋でよかった。僕は君に焦がれたまま死んでいくんだ。孤高の、稀代の名探偵として。誰からも理解されない苦しみは僕にとって喜びだ。
思考の邪魔をする甘美なノイズが聞こえた。
「ねえシャーロック」
ジョンが僕を見つめている。ビー玉のような瞳に晒されると居心地が悪い。母親に睨まれた子供のように逃げ出したくなる。彼はそっと僕に近付く。
「シャーロック。僕を怖がるのはやめてくれよ」
ジョンの手が僕の頬に触れた。子どもにするように、彼女にするように優しく、確かめるように彼の手のひらが触れた。頭に血が上った。
「やめてくれ!気が狂う」
僕を気遣うように言う。
「ごめん。君はこういうの嫌だった?」
焦って手を引っ込めたジョンの哀しそうな顔を見るのは嫌で、違うんだと言い訳したかった。
ひねくれた頭の中で勝手に神聖化したジョンの偶像に恋をしたかった。でも僕が好きでたまらないのは生身のジョン。この手の熱さ。もっと欲しくなる。
「…ジョン、もう一度」
「え?こうかい」
愛というのは厄介で、コントロールが難しい。禁断で実らない恋は僕をより完璧な存在に近付けてくれるけど、制御不可能な片想いや結ばれた愛は邪魔者だ。
硬い手のひらが頬を撫で、今ジョンが見ているのは僕たった一人だと思うと心臓がうるさく高鳴って、もっと君が欲しくなる。優しさと愛が欲しくなってしまう。
僕をそんな人間らしくしないでくれ!全部君のせいだ。きっと君さえいなければ僕はもっと崇高な存在でいられた。可愛いジョン、君を殺してしまいたい。殺したいほど好きなんだ。論理と知性で構成されていた脳に矛盾が生まれた。
ああ愛とは何と厄介なものでしょうか!


以前より優しくなった君を好きな人はたくさんいるのに君はそれもいらないのかい?全部弱さだと。彼らの可愛い好意を捨ててしまうのか?
すっかり弱くなった君はもう助けを求めるか弱い手を無視することができないんだ。つまらないシャーロック、そんな君が僕は愛しい。人間味のある不器用なスーパーコンピューター。天使だった頃の君とさよなら。







――――――
シャロジョン…ホモすぎてむずかしいです…

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