章用 DRRR

□あなたも私もポッキー!
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「旦那ー、ポッキーゲームしましょう。ポッキーゲーム」
「は?」
突如奇怪なことを言い出した男に四木は意味がわからないという顔をした。
「何故です」
「そりゃあ旦那、今日が11月11日だからですよ」
「はぁ」
「11月11日はね、お菓子会社の策略によってポッキーの日って決まってるんですよ」
その言葉に四木は四本のポッキーを思い浮かべた。赤林はへらりと笑って尚も続ける。
「だから、やりましょうよ!」
残った片方の目を子供のように輝かせるものだから四木はつい、ということもなくにべもなく断った。
「嫌です。何が楽しくて男二人でそんなこと。やりたきゃキャバクラでも行きゃあいいでしょう」
「え、旦那。俺たち付き合ってますよね…?」
「遺憾ながら恐らく」
「恐らくって…ええ!?」
赤林が目を白黒させているうちに四木は粟楠会のオフィスルームから立ち去った。
残された赤林は涙目。
「ちょっと待ってくださいよお!」



「何やってるんですかあなたは」
「こっちの準備はOKですよーってことを四木の旦那に伝えてるんです」
今の姿はまるきり阿呆だ、舐められたいのか。
思わず四木が硬直するほど赤林の姿は間抜けだった。ポッキーの端をくわえて待てをしているのだ。
「…いくら言われてもやりませんよ」
「じゃあおいちゃんは、いくら言われても止めないよ」
絶句する。あんたのその根気は一体どこから湧いてるんだ。
無駄にも程がある熱意にあまり当たらぬように四木は逃げた。
馬鹿だろうあの親父。



「旦那!」
今日幾度か目の赤林の姿に、四木は軽く目眩を覚えた。
赤林は両手を広げて四木を待つだけではなく、ポッキーをくわえたまま四木を追い回すようになったのだ。
口から菓子の棒を出して街を歩く赤林に、赤鬼と呼べる威厳は無く部下たちは笑いをこらえるのに必死だった。茜に至っては腹をよじりすぎて辛そうだった。
今日一日中追い回された四木は苦い表情を浮かべるしかなくなっている。
「あんた…そんなにそれ、したいんですか」
「したいですよ?」
相変わらず何を考えてるんだかわからない顔で四木を見上げる赤林。
「旦那が相手してくれないもんだからポッキー溶けちゃったじゃないですか」
言葉の通り、日がな日光に照らされていた長いチョコレートの先は溶けビスケットの部分が見えている。愚かなことに赤林は今日ポッキーを替えなかったのだ。
赤林と一緒に恥を晒し続けたポッキーもようやく貪られ使命を果たそうとしている。赤林はポリポリとポッキーを貪って、開いた唇に指を当てた。
「あーあ、旦那がポッキーゲームしてくんないから食べちゃったじゃないですか」
つまらなそうに男は言った。
「旦那、俺が好きじゃないんですかね。全然求めてくんないでしょ」
そうだったか。記憶を漁るとなるほど確かに自分から、というのは思い当たらない。
「ヤってる時も声聞かせてくんないし、憎まれ口ばっか叩くし」
それは関係ないだろうと決まり悪く四木は思った。
そしてそこも可愛いんですけどねとほざく口は黙らせておいた。
「ちょっとぐらい優しくしてくれたって、罰は当たりませんよう。四木の旦那」
最後に目線だけこっちに寄越し、何かをねだるような顔をした。
いいおっさんがそんな顔しても誰も喜ばないだろうに。それでも動いた自分も大抵ほだされていると四木はわかっていた。
赤林が弄ぶポッキーの箱を引ったくるようにして奪い、乱雑に中の一本を抜き取る。
煙草を吸うようにポッキーをくわえ、赤林を見た。
「早く済ませてくださいね」
「…!」
パアアと顔を輝かせた赤林にライトな殺意を覚え四木は目をつぶった。
止まれなくなった赤林に散々組み敷かれたのは後の話。





「ねえ青崎のおじちゃん。あの二人、仲いいの?」
「…聞かないで下せえ、お嬢」




――――――
「粟楠会公認の赤四木だっていいじゃない 人間だもの がき」

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