章用 その他

□あなたも私もポッキー!
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「ミチル。今日何の日か知ってるか」
ちょっと期待して聞いた安形に榛葉は、「椿ちゃんの誕生日」と素っ気なく答えた。
「そらそうだ」
安形は憮然として言った。
「じゃあなんで聞いたの」
呆れたように榛葉は呟く。
「ポッキーの日だ」
ばん、と机を叩いて立った安形の髪にクラッカーの切れ端がくっついていた。
「なにそれ」
「ポッキーの日だよ。ミチル知らねえのか?」
「聞いたこともない」
安形が感動した記念日なのに榛葉は興味なさそうだった。
「今日はポッキーゲームをするのが国民の義務なんだと」
「義務って」
ポッキーゲームってアレでしょ?よく合コンとかでやる、一本のポッキーを二人で食べてくヤツ。
今から説明しようとしたことをすらすらと述べられ安形はちょっと憤慨する。
「まあ、そんなんだ」
生徒会室の自分の机に、意図もなさそうに放られていたポッキーの箱。
椿の誕生日会の名残であるそれをヒラヒラやってみせるとミチルは整った片眉を上げた。
「え、何。やんの?」
「あたぼうよ」
ええー、と反論の声が上がる。
開封済みのポッキーを手早く取り出し榛葉の口に栓をした。
「む」
くわえたまま食べることもできず、榛葉は安形を軽くにらむ。彼の両手は自分の美を磨くための道具で塞がっているのだ。
突き出したポッキーの先を安形はくわえる。チョコのついていない方だが細いビスケットのようなそれは美味しかった。もちろん榛葉の作るケーキより劣りはするものの。
そのまま二、三口食べ進むが榛葉の唇は動かない。
ミチルからも食え、という意味で小さく顎を上げると、不服そうに榛葉はもう一口含んだ。
残り三cmで二人はキスをしてしまう。安形の真意はわからなくとも、榛葉は嫌だった。
ついにポッキーは大体二cmの長さ。どうしようかな、とようやく悩みだした。
あと一口を進むこともできず、榛葉は短いポッキーをくわえて停滞する。
「…!」
安形が動いた。
張りのある唇はポッキーを捉えようとはせず、榛葉の唇を奪った。
何が起きたのかわからないまま安形は唇を離し、ついでに残りのポッキーを浚っていった。
「な」
榛葉は反射的に唇を押さえる。
「何してんだこの野郎!」
「ポッキーゲーム」
菓子を咀嚼し終えた安形が、ニヤリと笑って言った。
「ごちそう様」
馬鹿!と怒鳴った声が廊下に漏れないうちに安形は自分の鞄を抱えて飛び出していた。
「待て、あのやろ…!」
顔をほんのり赤くした榛葉がすぐに鞄を取って、安形の後を追った。
お前の口のが甘ェよ、と生徒会室の開いた扉の横にもたれて呟いた。
榛葉がその姿を見つけ、安形の腕に収まるまで。その距離はもう幾らもなかった。





――――――
ポッキー食べ切る前に唇を奪うっていうシチュエーションが書きたかった。

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