章用 DRRR

□うつ伏せで眠るオーロラ姫
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彼女はうつ伏せで眠るオーロラ姫だ。知らない男に唇を奪われるくらいなら二度と目覚めなくたって構わない。狂った夢の世界の、永遠の住人。
俺の愛は届かないらしい。
今日も今日とて叶わない恋路を歩み続ける波江に、無謀な恋心を打ち明けたのはつい最近だった。
それでも波江は鬱陶しそうに俺の手を拒んだ。
「私は誠二が好きなのよ。あんたなんてお呼びじゃないわ」
波江の態度は対して変わらなかった。元より俺のことなんてペット用品のセール日よりどうでもよかったらしい。
それでもある日たまらなくなって、波江の耳に囁いた。
「波江。どうして。どうしてさ。誠二君は波江のことなんか見てくれないよ。俺を愛した方がいいじゃん」
待っていたのは怒声だった。
「うるさいわね!」
波江は俺の前に立ちはだかり、顔をくしゃりと歪めた。
「あなたが好きなのがこの髪なら、私はこの髪を切り落とすわ!あなたが好きなのがこの目なら、私はこの目を抉り出すわ!」
全身でそう叫ぶ。先割れスプーンこそ持ってないものの、彼女には狂気があった。
「あなたが好きなのが全部なら、私はこの身を海に投げるわ。…だから誠二を、好きでいさせてよ」
「波江」
なんで名前を呼んだのか自分でもよくわからない。
「ごめん」
しばらく二人は黙り込んだまま、気持ち悪い静寂を作っていた。
「私を愛すのはやめなさいよ。不毛だわ」
そしてポツリと波江が言った。
自分も不毛な恋をしていると賢い彼女はわかっていたのだった。わかっていて、諦められない。
お姫様を抱き締めることも許されない、茨の壁に隔てられて。
「嫌だよ」
いくらボロボロになったって君を夢から奪いに行くよ。








――――――
空気目指して撃沈。先割れスプーンとか、痛そうですよねぇ…!

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