章用 その他

□来世では脇にキス
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きっとどこかにはこれからも幸せに暮らして孫に囲まれた老後を送る僕たちもいるんだろうなと思って、パラレルワールドの自分たちを恨んだ。どうして僕たちがこんな目に。びっくりするくらいファンタスティックにデンジャラスな状況。僕のヒロイン(言っちゃった!きゃ☆)は銃を突き付けられて黒服に羽交い締めだし、僕は五人のマッチョに銃を向けられてまさに万事休す。詰んだ!カードゲーム研究会的に詰むのは許されないんだけど主人公に向かない性質だからちょっと手に負えなかった。僕が詰むと唯一喜ぶ愛すべきカードゲーム同好会の先輩(学年的には後輩)は潤んだひよ鳥のような目で僕を見ている。たまごなのに。
「た、多摩湖さんを離せ!」
アクション映画でしか聞かない台詞を叫べてしまったことに感動。今まで身も心も名前もチキン君だった僕が明らかにカタギじゃない方々に啖呵を切れるなんて愛は偉大だ。ラブアンドピースと言える状況じゃないけど。
案の定のノーリアクション。黒いサングラスは何考えてるのかわからない。某鬼ごっこ番組の怖さが人生の終わり間近でわかった。というかこんな終わり方は嫌だ、と思ったらたぶん脳の血管が切れた。
「離せって言ってんだろ!」
僕と彼女を隔てる3メートルを駆けた。
「多摩湖さんっ!」
伸ばした指先が多摩湖さんに、届かない。脇腹を撃たれた。そこは多摩湖さんが舐めるところであって銃弾がぶち込まれるところじゃない。幸いなことにかすっただけだから怪我としては重大なものじゃないだろうけど尋常じゃなく痛かった。日々の怪我と言えばカードの端で指先に赤い線を作るぐらいのひ弱なスローライフを送っているから、耐え難い痛さだった。
「うがぁっ!ぐあっ…うう…」
「黄鶏くん!」
どうしようもなくうずくまる僕に黒服は手を出してこなかった。僕の女神は泣きそうな顔をして、それから泣きながら微笑んだ。ああ、綺麗だなあと激痛の中で想った。
「黄鶏君だけは助けて」
え?
「…とか、言えない私はやっぱり我が儘なのかな」
そんなことないです。
「お願い黄鶏君、私と死んで」
すまなさそうにはにかんだ多摩湖さんが大好きなので僕ははいとうなずいた。多摩湖さん超絶カワウィイ。多摩湖さんマジ僕の(強調)天使。女神。よ…嫁!史上最高のプロポーズだ。死んでも二人で一緒にいられるなんて、幸せすぎて僕もう死んでもいい。
背中を蹴られて多摩湖さんの足元まで転がって、二人で同じところに押し込められた。あれ?幸せだぞ?多摩湖さんが同じ星にいれば僕は幸せなんだけど。
「ごめんね黄鶏くん」
多摩湖さんはまるでナイチンゲールのように優しく僕の背中をさすった。興奮する。
「いえ。多摩湖さんは大丈夫ですか?」
「うん」
美の結晶と言えるたまらないそのボディーに怪我がなかったと聞いただけで黒服を許しかけたけど奴らは麗しの多摩湖さんを手に掛けるのだった。許せない。末代まで祟ってやる。
彼女の涙が止まらないのを見てられなくなって、こんな時なのに僕はニヤニヤしてみせた。冷や汗びっしょり。
「最後ぐらいき、キスをしましょう」
多摩湖さんは大粒の涙を一つこぼして顔を上げた。
「き、キス!?」
大仰にうなずく。
「キスです」
「手を繋ぐとかじゃなくていきなりキス!?なんで!」
「最後に僕のはじめてを差し出そうと思って。はじめては多摩湖さんがいいんです…」
「それは私もだけど!レベル高いよ!」
「今までお腹なめなめとか眼球なめなめとかしてきたでしょう!もう唇にできる経験値は貯まったはずです!」
「君のキングは脇でも私のキングは唇なの!ラスボス!」
「脇にキスは来世でいいです!だから、キスしましょう」
本気で言ったら覚悟を決めたように多摩湖さんも顔を引き締めてうなずいた。
「…はい」
多摩湖さんの頬は赤かった。可愛すぎて心臓が止まりかけた。
「目、閉じてください」
きっと僕の顔も赤くて変な表情になっていて鼻息もちょっと荒くて、変態みたいな顔になってるだろうから見られたくなかった。目を閉じた多摩湖のキス顔は銀河一可愛くて心臓が逆に大変なことになっていた。爆発しそうな鼓動。世界遺産を越えて宇宙遺産にすべき、でも独占したいから僕の宝物でいてほしい。チューしちゃいたいほど可愛い。これからするんだった。
彼女を花嫁に見立ててヴェールをめくるふりをする。多摩湖さん、とひきつれた自分の声が聞こえた。そして黒服が死ね!と叫ぶのも。
唇はやっぱり柔らかかった。身体中のどこよりもずっと。甘くて優しくて多摩湖さんの味がして泣きそうなくらい幸せだった。体を貫く弾がちっとも痛くないくらい。僕らの唇が繋がっている間に世界は終わったのだから、僕らのキスは永遠だった。






――――――
入間人間か人間入間かどっちでもいいような気がするけど「多摩湖さんと黄鶏くん」はすごく面白いです。人が死なない。みーまーは週一で死を呼ぶランドセル探偵(CV高山みなみ)と同じくらいの致死量として、なんで「青春女と電波男」もグロく感じるんだろう。作家がいつも浴衣だからか。いやOPが神聖かまってちゃんだからかな!ちなみに正しくは「青春男と電波女」です。シャフトです。

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