章用 その他A

□大人の作法
1ページ/2ページ

あの夜の前から私はロバートが乱れる様子を見たかったのかもしれない。
「やあロイズ君。久しぶり」
へらへらした笑顔を浮かべてその男は私に近付いた。ブルーローズでもタイガー&バニーでもないヒーローが勝利を納めた日の夜だった。
「君か。こんなところで何してるんですか?」
「近くを通ったんでね。僕の友人の顔を見に」
「嘘でしょう。ワーカホリックの君はライバル会社の偵察?」
「野暮なことを言うなよ」
僕と君の仲だろ?ふざける彼の洒落た緑のシャツが目に入った。軟派だとしか思っていなかった、開きすぎた胸元。
自分は彼女ができたときにそういうことをするくらいで満足していたのに、なぜか彼のベッドの作法が気になった。意識すると止まらない。
彼はベッドでどのように妻を抱くのだろうか。彼の必死な息遣いが。長くカールした睫毛が伏せられるのが。胸板に浮かぶ汗が。精液さえ妄想した。
「どうした?ロイズ君」
返事がないのをいぶかしんで彼が私の顔を覗きこむ。プレイボーイの彼は人との距離が近すぎる。相手が女でも男でも。いつもは鬱陶しい過剰な色気が今日は嫌ではなかった。
「今夜空いてます?良かったら私と飲みにでも行きませんか」
「珍しい誘いだ。空いてて良かったよ。今から?」
「ええ。私の好きな店を紹介します」

アポロンメディアに近いが隠れた通りの落ち着いたバー。ロバートはオフィスで会うより楽しそうにしていた。仕事が大好きな彼は会議でもどこか楽しそうだが。
「上品な店だね。君みたいだ」
くすりと笑って彼はバーボンを注文した。透明な酒が彼の喉を動かすのをずっと見ていた。どう口説くか考えている。大人のたむろうバーの中だと彼はゾッとするほど美しい。無防備なその喉に舌を這わせたい。

「あはははは!君がこんなに面白いとは思わなかったよ、ロイズ」
「なんだと思ってたんですか」
「寂しい独身の中年サラリーマン」
「君もでしょう!」
「馬鹿言え!僕は奥さんが家で帰りを待ってる」
「帰らなくてよろしいんですか?」
「できた妻だよ。全く」
彼の薬指には値の張りそうな指輪が煌めいている。彼はガールフレンドと遊ぶとき、その指輪を外すのだろうか。体が疼いてくらりと彼にもたれかかる。
「ロイズ?」
「ちょっと…飲みすぎたようです」
「そうか?じゃあそろそろお開きにしようか」
「楽しくてついペースが早くなってしまいました」
「全くだよロイズ、もう若くないんだから。大丈夫かい?タクシー呼んであげようか?」
「あー…うっぷ。今乗ると…」
「運転手に拒否されるな」
「ねえロバート。私は辺りのホテルに泊まります。今日はたのしか…」
「ロイズ!」
別れを言おうとした途端よろめいて彼に支えられた。
「しょうがないなあ!あのホテルでいいか?」
「ありがとうございます」
ふらふらの私を担ぐようにしてチェックインする。間に合わせとはいえ悪くないホテルだった。
「ロイズ、僕達そういうカップルに見えてないかい?」
ロバートが悪戯っ子のように囁く。しかし隣の私が口を押さえたので、彼は慌てて私を部屋に運ぶ羽目になった。
部屋のトイレから出るとロバートはベッドに座って水を飲んでいる。
「もういいのか?」
「ええ。本当にありがとうございます。ロバート」
「じゃあ僕は帰るよ」
「タクシーで?」
彼はウインクを寄越した。
「女の子でも引っかけて泊めてもらうさ」
目に鮮やかなシャツの背中に追いついて後ろから囁く。
「残念だね、ロバート。君はもう私に引っかかってる」
彼はびくりとして振り向き、困惑した顔を見せた。
「よ、酔ってないのか。ロイズ」
彼らしくもなく少し裏返った声。
「ええ、全然」
ロバートの耳にキスを落とす。

「…ロイズ」
ああそういうことか。君は僕が欲しかったのか。
緩いネクタイを解いて投げ捨てた。
「来いよ」
ロイズが襲いかかってくる。普段女の子にしてるようにされる。この上なく刺激的だった。
シャツのボタンを外され露出した胸元にキスが降る。ベルトを抜かれパンツの中に手が伸びる。手際の良さに妙に感心した。女の子の柔らかな手のひらとは違う硬い大きな手にしごかれるのもなかなか良かった。熱っぽく僕を見つめるロイズに噛みつくようなキスをすると彼は答えて欲望のままにむしゃぶりついてきた。たまにはこんな熱帯夜もいい。

くたびれた体をシーツに沈ませ汗臭いまま二人は遊ぶ。
「君は僕に負けず劣らずのプレイボーイだ」
「そうかね」
「ただちょっと演技過剰じゃないか?部屋に入ったらもう本性を出していい」
「私のベッドで水を飲む君が素敵だったから」
「名男優だ。僕のとこでドラマに出る気はない?」
「ヒーローの子守りで十分です」
「なあロイズ」
「はい?」
「愛してる」
「軽い愛ですね」
「一回しか言わない」
「愛は数じゃない」
「そうかな?」

「昨日と同じスーツだと会社ではやされる。君のスーツを着ていくってのもいいな」
「私にそのグリーンは派手すぎる」
しかめ面のロイズが可愛くて頬にキスして媚びる。
「似合うんじゃないか?」
ホテルの部屋を出る際になってロバートはドアを背にして真面目に言った。
「なかなか良かった。また飲みにいこう」
彼は朝シャワーを浴びスーツを着てから結婚指輪を嵌めた。大人の作法だ。






――――――
書きたいとこだけ!
ゲイ要素たっぷりのノンケ♂にときめいてしまったノンケ♂というカップリングがタイバニには二つあると思うんです!それが兎虎とロイロバ!
ロバートさんは既婚のプレイボーイでいいかな!?
→また書きたいだけのおまけ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ