創作小説 「K」 

□序章
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思えば。

幼いころから、霊というものが見えていた気がする。
それはいつも隣に居た。
だが、視界の隅にぼんやりと見えているだけであって、
確認しようとすると見えなくなってしまう程度だった。

形はあるが、何かは分からない。

そんな違和感は、
あるときから一切感じなくなっていった…。



―――――――――――――――――


「おじいちゃん。」

田舎の神社の境内。
掃除をしていた老人に小さな子供が声をかけた。

「なんだぃ、愛一(めいち)。」

老人は優しく聞き返した。
老人の孫である愛一は神社の後ろの大きな森を漆黒の瞳で見据え、指差した。

「なんであの森に一人で入っちゃいけないの?」

老人は聞き慣れているような顔で、愛一を見遣った。

「森で迷ってしまうからだよ。愛一。」

確かに大きな森だが、中には森を突き抜ける一本道があるのだ。
迷うことは無いだろうが、老人はあえてそう言った。

「でも、道があるよ。あの道を通っていけば、一人でも迷ったりしないよ。」

愛一の必死な訴えに、
老人はやれやれ、と一言呟くと、愛一に近寄った。

「いい加減に諦めないか?愛一。今の言葉をわしは何十回も聞いたぞ…?」

それでも愛一は諦めないで、

「でも、おじいちゃんと一緒のときは迷わないよ?」

と言い返した。
と、老人は折れたのか、溜息を一つ吐いた。

「愛一、7歳になったら通ってもいいんだ。もう少しの辛抱だろう。我慢なさい。」

愛一はその言葉にむうぅと頬を膨らませた。


愛一は現在6歳。
あと一ヶ月ほどで7歳になる。
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