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□月の光、貴方の存在。
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―月の綺麗な夜は、苦手だ。



【月の光、貴方の存在】



情事後のベッドの上で寝転び、窓枠の外で淡く輝く月を眺めるのが好きだった。
真ん丸く満ちた月、薄く靄がかかったような其の光。
そんなときは決まって彼が傍に居た。

言葉は交わさない。唯、自分たちの存在を感じることが出来れば其れで良い。

やがて、其の青白いやわらかな光を放つ月が見えなくなったとき、彼は決まってこう云うのだった。

「あの月が輝きを失ったとしても、
 お前だけは、何も変わることなく光り続ける存在で在ってくれ」

酷く気障だとは思っても、優しげな、其れでいて毅然と発せられた其の言の葉は
まどろむ耳に心地よく馴染んでいったものだった。


―そう云ったのは、誰でもないお前なのに。


どれだけ満ちた月を眺めても、どれだけベッドに身を沈めても。

自分を掻き抱く大きなあの手は、
甘く囁くあの声は、
人懐こいあの優しい笑みは





――――――――――――もう、在りはしない。


虚無感に包まれながら、ふと思った。


―嗚呼、自分が輝いていられたのは、
彼が居たからなのだ、―と。


「…お前が居なくなったら、光れるわけが無ぇだろうが」

頬を、一滴の雨が伝った。



【月の光、貴方の存在】


(月ってのは、)(太陽があるから光を放つんだ)(――それなのに。)
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