捧げ物

□悪魔の薬
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「屑如きが歯向かうな。鬱陶しい」

苛立ちがウルキオラの翡翠の瞳に微かに宿る。
口許をニヤリと緩めたグリムジョーはチャンスだとばかりにウルキオラに向かって掌を翳し、蒼い虚閃を瞬時に放つ。

曲がり角にいたウルキオラは横にずれる事で難なく虚閃を回避した。
もといた場所の壁は虚閃に巻き込まれ穴が空き、寒々しい空が丸見えになり、弱々しい光が差し込む。
回廊には僅かな風と遠くで咆哮する虚の声が小さく聞こえる。
瓦礫が崩れ落ちたのと同時に背後に回り込んだウルキオラは、首筋に手刀を叩き込もうと腕を振り上げた。


「……!!」


しかしすんでのところで手首を掴まれ、振り返ったグリムジョーに手を引き寄せられ鳩尾に重い一発をくらう。
よろめき、たたらを踏みながらも捕まれた手首を振り払い後ろに飛びずさりウルキオラは間合いを取った。


「反撃してこいよ」


笑みを深めたグリムジョーは、広がった距離を余裕綽々な様子でゆっくりと縮めていく。
ウルキオラは動じることもなく平然と血と胃液が混ざった唾液を吐き捨て、不快気に口許を拭った。

「余裕だな?クアトロ様はよ」

ニヤリと緩めた口角がウルキオラの癪に障った。
浮わついた表情を壊すため霊圧を指先に集中させる。


「死ね。」


黒い爪先に音と共に光が集まり、丸い小さな球体が形成されていく。
時間にすれば僅か数秒のこと、しかしその数秒の間にウルキオラの体に異変が起きた。


「――っ!?」


背中を何かが走り抜ける感覚がする。
かと思えば、今度は全身を強烈な痛みが襲った。
その痛みはウルキオラの体を支配し、集めた霊圧を霧散させる。
あまりの痛さに呼吸も鼓動も早まり、薄い肩が大袈裟なほど上下した。
けれども、靴音は止まることなく進み続けウルキオラの前で止まり、弱く差し込んでいた光を遮り陰を落とす。


「手加減してやった方がよかったかぁ?」


嘲る口調でウルキオラを揶揄するグリムジョー。
肩を揺らしていたウルキオラはその言葉に俯けていた頭をもたげると、体が痛いのにも関わらず殊勝にも霊圧を僅かにあげた。
威嚇行為であったが、頬と目元に朱が走り緑の瞳も涙を湛えているため怖さなど微塵も感じられない。


「はぁっ…はぁっ…」


それどころかどこか扇情的であるその姿にグリムジョーは蒼の瞳を細めた。
その僅かな変化に気づいたウルキオラはチャンスだとふみ、この場から逃げよう響虚を使おうとした。
しかし一際鋭い痛みが体中を走り骨格が変わってしまうのではないかと疑うほどの圧がかかり膝から崩れ落ちる。


「――っ!!!!」


ウルキオラが声にならない声をあげるのと胸元の布が裂けたのは同時だった。
小気味良い音をたて裂けた布地の隙間からは通常存在しない白く丸い膨らみが顔を現し、体も少し小さくなった印象を受ける。


「はぁ、ぁ…なんだ…これは…」


気を失わずに激痛をどうにかやり過ごしたウルキオラは突如変わってしまった己の体に驚嘆し声を漏らした。
その音は男にしては高い音域であり、まるで女のもの。
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