短編小説
□生まれてきてくれて、ありがとう
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「御曹司ぃ〜〜〜」
にへっとアホ面を晒して笑顔を浮かべた傍らの“女装した″スクアーロは肩に寄りかかってきた。
「・・・なんだ」
小声で尋ねるがスクアーロからの返事はない。それどころか今度は腕にまで絡みついてくる。
ーー・・・酒くせぇ
俺は鼻先をツンとくすぐる香りがスクアーロからするものであり、その元が酒であることも察した。
先程までテーブルに並べられた料理を品もなく貪っていたくせに、酔うとこの始末。
周囲の視線がチラチラとこちらに集まってくるのを気にせずに、どんどん距離を縮めていく。
ここは毎年10月10日に開かれる俺の誕生日パーティ。
聞こえるように言ったつもりは無かったのだが、ボソっと呟いた俺の言葉を聞いたコイツは
寝そべっていたくせにガバっと起き上がると目を宝石のように輝かせて一言、「行きてぇ!!」と。
ボンゴレの上層部しか顔を出せねぇお堅いパーティになんざ、たかが二代目剣帝を倒したガキが入れる訳がねぇ。
そう言っても諦めないスクアーロに「俺の『連れ』としてならいけるかもな」と
半ば冗談交じりに鼻で笑ってやったら真に受けやがった・・・・・・。
「な?な?いいだろ!?」 ・・・・・・・・・。興味津々に身を乗り出して訪ねてくるスクアーロの声が今でも蘇ってくる。
「おぃ、こんなとこで恥晒すんじゃねぇよ」
「ん〜〜〜」
聞いているのか聞いていないのか判断しにくい呻き声をあげたはいいが一向に体制を戻そうとはしない。
一体どれくらいの量を飲んだんだこいつは。
「XANXUS様・・・・・・、お隣の方は・・・?」
「あ、あぁ、連れだ。少し体調が悪いらしい」
・・・ほらきた。 『連れ』がいると知った瞬間、とても残念そうな顔をしてその場を去ってゆく女が数人。
今、スクアーロがいなかったら俺はいつものようにジャラジャラと着飾った女共に囲まれていたことだろう。
「・・・カス、いい加減起きろ」
「・・・・・・ん・・・」
ベリっと肩から剥がすと名残惜しそうに呟いたあと、うっすらと目を開ける。
数回瞬きを繰り返し、だんだんと目に活力を取り戻していく。
その姿は妖艶で、窓から除く月明かりに銀色の長い睫毛が光を浴びて幻想的な色を放つ。
同様の色を持つ銀髪は生憎、今日は栗色のカツラの下にある。
よく見れば青白くも見える肌は紅いドレスによく映え、先程の女たちよりも美しい。
「帰る」
「ふーん、・・・え!?」
俺はスクアーロの腕を掴むと車を停めさせている出口へと足を進める。
「御曹司、まだパーティ終わってねぇだろぉ・・・?」
「いいんだよ、あとはジジイがどうにかする」
「意味分かんねぇ・・・」
ため息混じりに吐き捨てられた言葉だったがそれには少々の笑いも混じっていた。
どうやら満更でもないらしい。
二人のドアマンに塞がれていた扉から外へ出ると街灯のほのかな光に照らし出された黒塗りのリムジンに向かって歩み出す。
まだ10月というのに夜風が冷たい。
来たときは人混みだらけの街だったのが今じゃお高い服を纏った少数の人間しかいない。
「ほら、大丈夫か?」
「お、お″ぉ・・・」
慣れないヒールでぎこちなく階段を降りる彼にXANXUSもまたぎこちなく手を差し伸べる。
その美男美女に周囲の視線は自然に集まっていき、暫し足を止める者もいた。
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