短編小説
□灼熱地獄とアイスクリーム
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それは数分前の出来事・・・。
「なぁ御曹司ぃ!」
何とも言えぬ、蝉独特のうるさい雑音の中、さらにうるさい銀髪はこの暑さにへたばることなく俺に話しかけきた。
「俺に少し付き合えぇ!!」
「・・・はぁ”?」
ヤツはすかさず手首を掴むと、俺の返答など聞かずに走り出した。
今思えばあのとき腕を振りほどいていればこんなことにはなっていなかったのだろうが、
ソレをしなかったのはただ単に気まぐれだったのだろう。
たまにはコイツ・・・スクアーロに付き合ってやっても良いと思ってしまった。
学校帰りに寄った街はうざいくらいに人で溢れかえっていて、夏の猛暑と熱気で頭が沸騰してしまいそうだ。
XANXUSをそんな街に誘った張本人は、さっきから何やらいろいろな店をせわしなく行ったり来たりしている。
一体なにをそんなに買うのかと、嫌み混じりに感心していると、やっと買い物を終えたらしいスクアーロがこちらに駆け寄ってきた。
だが手にはコイツには似合わない・・・
「なんでそんなモン持ってんだ」
アイスクリームを持って。
「それに荷物はどうした」
そう尋ねつつ、無言で差し出されたアイスクリームを仕方なく受け取ってやる。
「あー、思ったより多かったから宅配にしたんだぁ」
・・・馬鹿。荷物持ちに俺を連れてきたんじゃなかったのかよ・・・。
それに、あんな荷物だったら
「・・・俺が持ってやったのに」
「ん‘’?何か言ったかぁ?」
「・・・何でもねぇよ」
「なっ、何でキレてんだぁ!!アイス奢ってやったのに!」
コイツには俺が言いたい事を感じ取るスキルがないのだろうか。
・・・いや、普通の人間なら常に備わっているスキルがコイツには無い。きっとそうだ。
「第一、俺がいつアイスを奢ってと頼んだよ」
別にアイスクリームが嫌いなわけでも怒っているわけでもない。
むしろこの灼熱地獄から抜け出せる唯一の嬉しいもの、なのだ。
「別に頼まれちゃいねぇけど・・・俺、誰かに買い物とか付き合ってもらったらアイス奢るって決めてんだぁ」
何でわざわざそんな面倒な決めごとしてるのかと問いたかったが、どうせコイツのことだろう。
・・・たいした理由があるわけでもないハズだ。
返事の代わりに、手に持っていた今にも溶けてしまいそうなアイスを一口。
「甘い・・・」
淡い黄の色からしてレモンだと思っていたが、口内に広がったのは甘ったるいパイン。
恨めしそうにスクアーロを見やると、無意識なのか満面の笑みで美味しそうに頬張っていた。
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