酒饅頭
□右手と左手
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うぅ〜〜!手が握れねー!!
【右手と左手】
「………ーロさん?」
次!次の角を曲がったら絶対にエニスの手を…
トントン
「あの…フィーロさん?」
「うおっ?!エ、エニス!?」
「あ、す、すみません。さっきからお呼びしていたのですが返事がなかったので…」
「あ、い、いや…こっちこそごめん」
あーもー、何考えてんだ俺!今はエニスと買い物中だろ!買い物!
俺の名前はフィーロ・プロシェンツォ。若くしてイタリアのマフィア『カモッラ』の幹部、カモッリスタだ。
現在、ロニーさんやらマイザーさんやらに頼まれ街で買い物中だ。
そ、その、こ、こ、恋…恋人のエ、エニスと。
「あ、ありましたよ、フィーロさん」
にっこり笑顔で俺に胡椒の入った袋を見せるエニス。
う…可愛い…。
エニスは人間じゃない、人造生命だ。
けど、俺にはそんなの関係ない。
俺は『エニス』が好きなんだ。顔も声も髪も仕種も全部。全てが好きだ。
それに俺も、俺の周りにいるカモッリスタ全員、普通の人間じゃねーしさ。今更そんなの気にしねぇ。
「エニス、いいから」
「いぇ、私にも何か1つくらい持たせて下さい」
「いーって」
今は買い物が終わって店に戻る途中。
荷物を沢山持っている俺が気になったのか荷物を持つと言い出したエニス。
「フィーロさん…」
しゅんとなるエニス。
うぅ…。
と、その時−−
「危ないエニス!」
「え?」
グイッいきなり車が凄いスピードでカーブギリギリ曲がって来た。
「大丈夫か?エニス」
「あ、はい。ありがとうございました」
「い、いや…」
嘘だろ?
俺は自分の目を疑った。
エ、エニスの手を握ってる…!!!
「あの、フィーロさん?」
「あ、ご、ごめん!」
パッと手を離すとエニスがキョトンとしながら聞いた。
「え、何がですか?」
「え?…あ、あー…その、あのさ、て、手…繋いでも、い、いいか?」
「え?」
やっぱダメか?!
「あ、はい!」
笑顔で答えてくれたエニス。
俺はエニスの差し出された左手を震えながらそっと握った。
ちょ、ちょっとは俺のこと恋…
「ふふ、チェス君ともいつもこーやって買い物するんですよ」
「あ、そ、そぅ…」
いや、分かってた、分かってたけどさ…!
「何だか家族になれたような気がして凄く嬉しいです」
「エニス…」
「いつか姉弟仲良く3人でお買い物したいです!」
「きょ…姉弟…」
「はい!フィーロさんもチェス君も私の大事な家族です!」
はは…姉弟か…。
俺の恋路はまだまだ先が長そうだ。
でもまぁ、いっか。
END