酒饅頭

□予定確定
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「そろそろ戻ってくる頃かな…」

ギィと自分の体重を預けたイスが音を立てた。

「誰がさ?」

ビクッ!

【予定確定】

ガッターン!と派手な音を立てるイスとバサバサと舞い散らばる書類にドテッと倒れる自分。

「エ、エレアン・・・」
「大丈夫ー?さっきから何回もため息ばっかついて時計ばっか見てさー、そんなんじゃ幸せが逃げちゃうよー?」
「ウルセー」

キィ

「社長、いる?」

扉の方に目を向けるとそこには緑の作業服に身を包んだ女、俺がひそやかに想いを寄せるレイチェルが立っていた。
陽の光に溶け込みそうな眩しい金髪に、相変わらずの気のきつそうな髪と同じ色の瞳。

「ははーん、もしかしてレイチェルの帰りを待ってたのかい?」
「!?ちょっ、お前!」
「?どうかした?」
「いや、それがさー‥」
「エレアン、お前は明日の新聞の原稿のチェックでもしてろ!」
「何?そんなにレイ‥」
「ウルサイ!」

俺は何とかベラベラと喋る無理矢理エレアンを奥へと押し込むと、恥ずかしさを隠す為ゴホンと咳ばらいをした。

「ま、まぁとにかく社長室へ」
「?」

長い長い社長室へと繋がる廊下を二人で歩く。

「案外早かったな」
「別に」
「…今回も普通に切符を買って乗ったのか?」
「そうだけど、それが何?」

レイチェルがキッと俺を睨んだ。
あー、やっちまった…。
つい、言ったらケンカになることを言ってしまう自分の口をどうにかしたい今日この頃。

「あ、いや、その…」
「前々から思ってたけどアンタ、その一言多いとこ直した方がいいと思うよ」
「…………」

ダメだ、完全に、完璧に、完膚無きまでに嫌われた。
あぁ、俺のバカ…。

「そしたら結構いい奴なのにさ」
「え?」
「ま、私にこんなこと言うのアンタだけだから別にいいけど」
「…………」

あれ?嫌われてない…?

コンコン

「レイチェルです」
「あぁ、待っていたよ、入りたまえ」
「失礼します。…何ボケッとしてんの?」

レイチェルが扉を開ける前に大分後ろで呆けている俺に気付き軽く睨みながら言った。
でも、勘違いかもしれないがさっきと違って少し優しい感じがする。

「早く行くよ、ニコラス」

今、なんて…。

「失礼します」

レイチェルが社長室に入ったから俺も慌てて社長室に入った。

「あぁ、予定より少し遅かったね、レイチェル君」

レイチェルがソファーに座りながら言った。

「あ、ニコラスと少し話していたので…」
「おや?いつの間にニコラス君と仲良くなったんだい?」
「あ、それは‥」
「これから仲良くなっていく予定です」

俺が横から素早く言うとレイチェルの驚いた顔がコチラを向いたから俺はニッと笑って尋ねた。

「ね?」と。

END
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