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□それぞれの道を進む者たち
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「正義だ。正義こそが正しい道に決まっている!」

叫んだのは馬超だった。兜の下からは汗が滲み出していて、今まで相当な時間力説していたであろう事がうかがえる。

「いや!義だ!義が我らに力を与えてくれる!」

兼続も間を置かずに叫ぶ。彼も相当叫んでいたのか、息切れしていて、最後の方の言葉は噛みそうになっていた。
二人はつい最近、浅井長政と南中救出戦で共に戦ったというのに、少しの意見の食い違いで論争に発展してしまったのだ。
若さゆえ熱くなってしまうのは仕方のない事だが、この二人の場合は特筆して熱い。

「正義と義、どう違うんですか!不埒です!成敗します!」

キッと睨み、弓を構えた稲姫の背後で恐ろしい炎が燃えている。普段礼儀正しい彼女をそうさせる程、二人は長々と言い合っていたのだろう。
二人は目を見開き肩をすくませ、両手を見せ、無抵抗の意を示した。

「待て待て待て!俺達は仲間だろう!」

馬超が兼続の後ろに回りこみ盾にしようとする。

「そうだ!チームワークは大切だぞ!」

兼続も負けじと馬超を盾にしようとした。
そう、三人は今は一応仲間なのだ。明日の戦に備え、夜の兵舎外で話し合っている時に、馬超と兼続が喧嘩を始めたというのが大まかな経緯だ。

「では少し静かにして下さい。兵士達が休んでいますから」

人差し指を口に当て、穏やかな目になった稲姫が振り向いたその先には、兵士達が休むテントが点々と連なっている。
所々に、ちょうど人程の長さのたいまつがパチパチと燃え、柔らかい橙色の明かりが月夜の下の三人を映していた。

稲姫が弓を降ろした事により、二人は強ばらせた肩の力をほっと抜いた。

馬超は片眉を上げ険しい表情で頬をかく。
兼続はうつむいてため息をつく。
二人とも女性に説教されるのは弱かった。

誰一人言葉を発しない時間が数分続いた時、遠くから土を踏みしめる音がした。
聞き覚えのある笑い声と共に。
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