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□sweet time
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そして今日も、30分間の練習が終わった。

クラスメートが少しずつ音楽室を出ていく中、僕はピアノのところまで行って、水野さんに話しかけた。

「お疲れ様。
すごかったね!ピアノ」

「………え?」

「すごくきれいだった」

僕がそう言うと、彼女は頬を染めて小さな声でうつむいて言った。

「そんなこと………まだちょっと間違えるし…」

「そうなの?
全然わからなかったよ」

「でもすごいね〜。
僕、『ねこふんじゃった』もまともに弾けないから」

「…そうなの?」

「うん。
今度教えてくれる?」

「ふふ…。
いいよ」

水野さんは『ねこふんじゃった』にウケたようで、明るく笑った。
やった!
学校で久しぶりにみた彼女の笑顔に、僕は心の中でガッツポーズをした。

「なになに、二人なんか仲いいよね。
もしかして、付き合ってるの?」

僕たちがピアノの前で談笑していると、クラスの女子がやってきた。
明るくてよくしゃべる、ちょっと世話焼きな子だ。

「ち…違うの!!
ちょっと話してただけ」

水野さんが赤くなって慌てて否定する。
そんなにバッサリと強く否定しなくても…。
僕はちょっとショックを覚えた。

「え〜。
そんなに一生懸命否定したら余計にあやしいなぁ」

その子は空気を読まずに楽しそうに水野さんをからかう。

「本当に!
別に、小崎くんとはなんでもないから!」

水野さんはさらに力いっぱい否定した。
そんなに否定すると、逆に疑われるって…。

「…水野さんの言うとおりだよ。
本当に僕たち、付き合ってるわけじゃないから」

僕は仕方なく彼女に助け船を出した。

「ふーん。そうなんだぁ。
ごめんね。勘違いしちゃって」

その子はそう言ってテヘッと笑うと、友達と帰って行った。

後には気まずい感じの僕たちだけが残る。

「じゃあ、僕、美術部いくから…。
今日は遅くなりそうだから、先に帰っていいよ」

僕は周りに聞こえない程度の小さな声で水野さんにそういうと、美術室に向かった。
最近は僕が終わるのを彼女が待っていてくれて、一緒に帰るというのが普通になっていたが、今日はなんとなくそういう気分になれなかった。
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