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□水玉ピンク
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一方、晶に平手打ちをして走り去った深華(みか)は、教室に戻り、激しい自己嫌悪に陥っていた。
深華は、一年ほど前から晶のことが好きだった。
長身で顔も良くて歌やスポーツが得意な晶は、かなりモテる男だった。
晶に告白する女の子は多くて、晶を好きで見ているだけという子はもっと多かった。
しかし、晶は誰と付き合っても長続きしない。
今まで晶と付き合って1ヶ月もった子は一人もいなかった。
我こそは、と自分の顔に自信のあるかわいい子が告白しても、付き合って一週間であっさり振られる。
おかげで、『誰のものにもならない晶くん』という勝手な晶像が女の子の間で出来上がり、晶人気に更に拍車をかけていた。
『付き合って長続きしないなんて、いい加減なだけだろう…。
なのに、なぜモテる?』
深華はそう思い、晶のことも最初あまり好きではなかった。
『かっこいいのは認めるけど、女の子に囲まれてヘラヘラ笑って軽そうだし、授業もさぼってばかりで不真面目そうだし……』
そう思っていたのに、去年の学祭の日、たまたまステージで晶の歌声を聞いた深華は、あっけなく恋に落ちてしまった。
『まさか自分が、見た目や歌声なんかで晶を好きになるなんて…』
でも、人を好きになるきっかけなんて、結構そんな些細なことなのかもしれない。
それからというもの、深華はひそかに晶を思い続けていた。
晶は隣のクラスなので、休み時間や教室移動の時には、遠くから見ることができた。
でも、まさか誰もいない中庭でばったり会うとは思わなかった。
深華は前から近づいてくる晶に気づき、とっさに携帯の画面を見ているふりをした。
そしたら…水たまりにはまり、しかもパンツまで見られ、恥ずかしくてまさかの平手打ち。
『最悪……………』
ためいきと共に肩を落としてうなだれる。
『きっと嫌われた………』
告白なんか初めから諦めていたが、せめてひそかに晶を見ていたかった。
深華は授業も上の空で、さっきのことを思い出し、後悔の海に深く沈んでいった。
裸足の足先から上ってくる冷たさが、心まで冷やしていくようで悲しかった。