書庫
□水玉ピンク
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それから数日たったある日。
晶は休み時間に隣のクラスに出向いた。
晶が来たので、女の子達が遠巻きにきゃあきゃあと騒いでいる。
晶は、深華の座っている廊下側の席へ行って話しかけた。
「おい。
英語の教科書貸してくれよ」
「えっ?」
深華は目の前に晶がいることに、驚きを隠せない。
なんでここに松本くんがいるの…?
何故、親しくもない自分に教科書を貸してくれと頼むのか…。
わからなかったが、頼まれてしまったのでとりあえず英語の教科書を差し出す。
「ありがとな」
にっこり笑う晶の手が、教科書をもらう時に、一瞬、深華の手に触れた。
深華のほっぺが朱く染まる。
晶はクスッと笑い、そのまま、教科書を持って自分の教室へ戻っていった。
残された深華の席には、女の子達がわらわらと集まってきて、どうして晶が深華のところに借りにきたのかと、質問責めにあった。
深華は、たまたま近くにいたからだろうと答えてごまかす。
自分にも、どうしてなのかわからないのだから他に答えようがなかった。
晶は、借りた教科書に紙を一枚挟んで深華に返した。
紙には、
『俺とつきあわない?』
と書いた。
深華は次の休み時間、晶から返してもらった教科書に一枚の紙が挟んであるのを見つけた。
紙を開いた彼女は、書かれている内容に、ひどく驚く。
心臓がドキドキとうるさく鳴りだした。
読み間違いじゃないかと、何度もその文を見返した。
つきあわない?…って、恋人としてって意味よね…?
でも、冷静になって考えてみると、やっぱりなにかの冗談としか思えなかった。
ラブレターにしては、ノートを破った紙というのはあまりにもあっさりしすぎだし。
好きともなにも書いてないし。
ただ、つきあわない?とだけ書かれているのだ。
……………………。
一番思い当たるのは、この前の平手打ちの仕返し。
この前のこと、まだ怒ってるのかな…?
だけど、好きな人からの『つきあわないか』という手紙だ。
もしかしたら…と淡い期待を抱いて、心が勝手に喜んでしまう。
ただの遊びかもしれない。
騙されてるのかもしれない。
だけど………………
深華は、ピンクの便箋に
『話しがしたいので、昼休みに中庭にきて』
とだけ書いて、英語の教科書に挟み、晶に渡した。