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□水玉ピンク
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「…あ、ちょっとよるとこあんだけど、いいか?」
「?うん」
そう言って晶が向かったのは保育園だった。
「あっ!お兄ちゃん!」
「寧音(ねね)。帰るぞー」
「うん!
先生〜さよなら〜♪」
5才くらいの女の子が走ってきて、満面の笑みで晶に飛びついた。
「お兄ちゃん!
ただいまっ♪」
「おかえり。
保育園楽しかったか?」
「うん!あのね……」
寧音の話に、晶が優しく微笑んでいる。
晶のこんな顔は初めてみる。
深華は黙って二人のやりとりをしばらく見つめていた。
「晶。この子…妹?」
「ああ。こいつは妹の寧音。
俺んち、親が離婚して母親が昼間いないから、寧音の面倒は俺がみてんだ。
寧音、こいつは深華。
こんにちは、は?」
「…こんにちゎ」
人見知りしているのか、寧音は晶に抱っこされて、小さな声であいさつした。
「こんにちは。寧音ちゃん」
深華はにっこり笑いかける。
そのまま、晶と深華は寧音の保育園での話を聞きながら歩いて駅まで向かった。
帰る方向が同じだったので、三人は同じ電車に乗った。
晶の降りる駅が近くなると、晶に家に寄っていかないかと言われた。
深華はちょっと逡巡したが、興味に負けてちょっとだけお邪魔することにする。
晶の家は駅から近いマンションの3階だった。
鍵を回して玄関を開ける晶に続いて、深華も緊張しながら家に上がる。
晶の母親は仕事でいつも帰りが遅いらしく、家はだれもいなくて、がらんとしていた。
「ちょっと寧音と遊んでてくれるか?」
「うん。
寧音ちゃん、絵本読む?」
本棚にあった絵本をとって見せると、寧音は恥ずかしがりながらも頷いた。
「むか〜しむかし、あるところに おじいさんとおばあさんがいました……」
晶はその様子を眺めてから、台所に消えた。
深華が絵本を読んでいると、晶が二人分のコーヒーをいれて持ってきた。
深華が役になりきって絵本を読んでいるのを、晶も横に座って聞いている。
深華は恥ずかしくなりながらも、最後まで読んだ。
読み終わると、寧音が
「みかちゃん、これも読んで〜!」
と次の本を持ってきた。
「のねずみのリリとララは…」
深華は寧音が次の本を持ってくる度に、それにこたえて読んでやった。
「寧音。今度はお絵かきしたらどうだ?」
晶が紙とクレヨンを持ってくると、寧音は頷いて絵を描き始めた。
「疲れたろ?」
「ちょっとね。
でも、わたし結構こども好きだし、楽しかったよ。
寧音ちゃんにもだいぶ人見知りされなくなってきたしね」
深華は笑って言った。
「お前って、やっぱかわってるな。
…今まで付き合ったことないタイプだ」
「そう?」
「ああ。
今までつきあったやつは、化粧とか服装とかにばっか気合い入ってんだけど、寧音のことはなんとなく邪魔そうにしてんだよな。
俺は、今まではそれが普通だと思ってたけど、お前は違うんだな…」
なんだか誉められているみたい。
深華はちょっと照れて言った。
「それは……晶が女の子を顔で選ぶからでしょう?
わたしみたいな方が普通よ」
「でも、初めは性格とか知らないし、どうせつきあうならブスよりは可愛いほうがいいって思うだろ」
「それは、そうかもしれないけど…」
「お前は、なんかあったかくていいな」
晶がフッと頬をゆるめて笑った。
深華もちょっと照れながら晶に笑い返し、二人の間にやさしい空気が流れる。
その時、
「お兄ちゃん、みかちゃん、見て〜!」
寧音がかいた絵を持ってやってきた。
「わ!
上手だね〜。これはだれ?」
寧音の絵の中には、人が三人、手をつないでニコニコ笑っていた。
「これがねねで〜これがお兄ちゃんで〜これがみかちゃんだよ♪」
「そっかぁ!
寧音ちゃん、お絵かきうまいね〜」
寧音はエヘヘと笑っている。
深華と寧音はまた二人で仲良く遊び始めた。
「…やっぱり、あんまり懐かれすぎるのも問題だな……」
晶は二人を見ながらぼそっとつぶやいた。